海の音

 海の音がした。


 ワンルームの自室で書類を制作していたのだが、思わぬ音に手が止まってしまった。


 スマホから鳴っているのかと思い、画面を確認する。だが音が鳴るようなアプリやサイトは開いていなかった。パソコンも書類制作用のソフトしか起動していなかった。


 ふと思い出が蘇る。


 幼い頃、海に行くのが好きだった。しかし泳ぎが得意というわけではなかったので、いつも浅瀬で浮き輪につかまっていた。それに飽きたら砂浜を歩き回って貝殻を集めていた。そういえば、泳ぐよりも貝殻を集めている時間の方が長かったかもしれない。


 あれから何年経っただろうか。あの頃集めた貝殻はお菓子の入っていた缶の中に詰め込んだままのはずだ。


 また、海の音がした。


 貝殻の入った缶が近くにある気がした。私は立ち上がって缶を探しはじめた。物の少ない部屋なので、あるであろう場所はなんとなく検討がついていた。


 部屋の隅にある、開けていないダンボール。この中に思い出はしまったままだった。


 ダンボールを開けると、一番上にキラキラとした缶があった。こんなに近くにあったのに、忘れていたなんて。


 缶の蓋を開けた瞬間、海が溢れてきた。


 海の音に包まれた。

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