チョコレート

 死んだ魚の目をしてチョコレートを配っている男がいた。群衆は受け取ろうともせずに目の前を通り過ぎていく。


 群衆をかき分けて、私はチョコレートを貰った。男は貼り付けた笑顔を見せてくれたかと思えば、すぐに死んだ魚の目に戻った。


 しばらく歩き、お気に入りの公園のベンチに腰をかける。公園は閑散としていて子供一人いない。


 貰ったチョコレートを観察する。手のひらサイズのオレンジ色の箱に入っていて、「チョコレート」とだけ書いてある。裏を見ても成分表だとか原材料だとかの表記はなかった。


 箱を開ける。中にはビニールに包まれたチョコレートが二個あった。一つをつまみ出す。ビニールは半透明で中のチョコレートがよく見えた。まんまるでつやつやとしていた。


 ビニールを開け、チョコレートを食べる。苦味、甘味、酸味、コク。複雑な味が口の中に広がる。思わず目をつぶって味を堪能してしまう。まるで味のシンフォニーだ。


 もっと欲しくなり、男の元へ戻ったが姿はどこにも見当たらなかった。人混みの中で残りの一個を口に入れて目をつぶった。

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