黄色いバラ

「なんのつもりなの」


 客がまばらな喫茶店で、"りさ"は不機嫌そうに言った。


「迷惑、かけたから」


 "みちか"は一輪の黄色いバラを差し出した。そして、おわび、とだけ言った。


 りさはそれを受け取り、ため息をついた。


「ひとまずこれは受け取っとくけど、あのね」


 りさはみちかの目を強く見つめた。


「私が彼氏と別れたのはみちかのせいじゃないから」


 みちかはただその場にいただけ、とりさは言った。


「でも、私が変なこと、言ったから」


 みちかはうつむいて太ももごとデニムのズボンを強く握りしめた。


「私の方が、りさのこと、たくさん好きって」


「そんなのあいつと付き合う前から分かってるよ」


 りさは苦笑いした。


「みちかはいつも私と一緒にいたからね」


「でも最近は、違った」


「そうね」


 中学一年の頃に知り合ったりさとみちか。二人はどんな時も一緒にいた。お弁当の時も、トイレに行く時も、受験をする時も。


「でも、たまには環境を変えてみたかったの」


 りさは冷めたコーヒーをスプーンでかき回す。


「で、飽きたからあいつとはおしまいにしただけ」


 あんまり楽しくなかったし、と、りさはコーヒーを口にする。


 みちかはまだズボンを握りしめていた。


「じゃあ、これからは」


「また、みちかと一緒にいるよ」


 みちかは安心した顔をした。りさも苦笑いする。


「変なやつと遊ぶより、みちかといるほうがいいや」


 アイツのアカウント、ブロックしなくちゃ、とりさはスマホを手に取った。


 スマホの着信音が鳴った。


「ごめん、私」


 みちかは慌ててカバンからスマートフォンを取り出し、返信を送る。


「お母さんから?」


「違う、けど、そんな感じ」


 送り相手の名前は、りさの元彼だった。


「大切な、人」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る