鬼女

僕の町では22時、不定期に放送が入る。

町のスピーカーから、女がしゃがれた声で話すのだ。


「今の時間起きている者は、私が殺しに行きます。いい子は寝ましょう。」


この夢も、何度も見た事のある夢だ。

外にいた時、僕は咄嗟に地面に倒れ込み寝たふりをしたが、誰かに足を引きづられ、真っ暗な場所へと連れて行かれた。寝室にいる時、鎌を持った女がやって来る。僕の布団をめくり、僕の胸に手を当てる。すると女は鬼の形相で鎌を振り下ろし、僕は殺された。

髪が長く、歳は50過ぎほどの女。

何度も見た事のある夢、つまり何度も殺された夢。この夢は僕が小2あたりでよく見ていた。


現実生活での2年後、つまり小4、5。

夢の世界で、僕は風呂に入っていた。風呂からあがり、リビングに行き窓を見ると、外にはナイフを持った女が歩いてくるのが見えた。僕は慌ててトイレに隠れた。しかしここではいずれ殺されると思い、裸のままトイレの小さい窓から出た。今は昼だ。しかし視線なんか気にしていられない。

僕はこれが夢であるとこの時自覚はしていた。

一番近い友達の家に向かった。インターホンを鳴らし、中へ入れてもらった。この時には必死でもう、夢と自覚したのを忘れていた。

女の子の部屋だ。裸だったはずの僕は、いつの間にか短パンを履いていて安心した。

窓を見るとまた、ナイフを持った女がいた。僕は友達と一緒にトイレへ向かった。また同じく窓からこっそりと出た。そして住宅地を2人で走り回った。

暫くすると、女の気配は無くなった。もう追ってきていない。友達は家に帰った。僕も家に戻ると、駐車スペースに女がいた。こちらに気付くと、手を振って「よお」と明るく声をかけてきた。

もう大丈夫なのかと思い、返事をすると、女はこちらを睨んだ。


「お前、ここの家の奴だろ。」


女はまた追いかけてきた。

僕は逃げるが、気づいたら図書館に入っていた。女にすぐ追いつかれ捕まった。


「お前の家族は皆私が殺した。」


女はナイフではなく、鎌を持っていた。

晩に放送を入れて殺しに来る女だった。

僕は、女が普通の人間であったことに驚いていた。山姥とか、何かもっと得体の知れないモノだと思っていたからだ。

僕は女の手を振り払い逃げた。

その途端、左の壁から車が突っ込んできた。中から警察が出てきた。

女は外へと走り出した。警察と一緒に僕も女の後を追う。原っぱに出ると、女を挟み撃ちするように大勢の警察が囲む。警察は拳銃を取り出してそこからロープを飛ばし、女を捕らえた。


それ以来、何度も見た、鎌を持った女は夢に出なくなった。嘘のように、パタリと見なくなったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の中で 秋光 @aokichan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ