女の人

苦しくて胸に手を当てる。

息を荒げながら走る、この見知らぬ街。

紅い煉瓦の道、カラフルな家の壁。日本とは違う、何処か洒落た雰囲気。まるでゴッホのカフェテラスの絵のような、夜であった。店が並んでいて、その大通りを人が大勢いるのだ。人混みの中を掻き分け進む。


僕は、とある女の人を探していた。よく思い出せないけれど、特別な存在。

それにしても、何故こんなにも人が多い。

これでは探している女の人が見つからないじゃないか。その女の人には、危機が迫っているのだ。

でもその危機が何かは、よく分からない。


人混みの中に、僕の兄が見えた。

あれ、どうしたんだろう。声を掛ける暇も無く、行ってしまった。


にわかに人々は道の真ん中を開け始めた。

すると開いた道を、黒い布を被った不気味な集団が、後ろから足速に歩いて来た。その謎の集団、六人くらいはいるだろうか。彼らの持つ松明が、メラメラと炎が高く立つ。


僕は路地裏に隠れていた。

息を潜め、様子を見ていた。

奴らは一体何なのか。


路地裏の奥に、広場がある。その真っ暗な場所から、誰かがいる気配を感じた。

壁にもたれている女の人。

そう、僕が探していた女の人は、この人だ。

だがよく見ると、上半身しか無い。引きちぎられた様で、地面には血が広がっている。まだ生きていると僕は思った。

化粧された女の顔は、真っ直ぐ一点を見つめ、悲しみの表情を見せる。

突然、女の人の横で男が座っている事に気がついた。二十代、全身黒い服を着て、銀髪のハンサムな人だった。涙を流している。


「死んでしまったのか。」


男は言った。

その言葉を聞いた途端に僕は、この二人とは赤の他人であるという気持ちが支配した。


夢はここで終わる。

この夢は、他の夢とは違って、リアルだった。上手く言えないが、現実で体感しているような生々しさがあった。


この話は勿論夢の話で、フィクションだ。

だが、僕はこの目でしかと見たんだ。

この目で見た、とはノンフィクションでもあると言えるのだろうか。

この夢の出来事を、僕は現実と錯覚させてくる。


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