夢の中で
秋光
東京
自宅の前にはハザードランプの列が道に並ぶ。年に一度のある夜、東京に行かなければならない。
行かなければ、殺される。
いつもサンバの曲が流れていた。笛の音が一定のリズムで鳴る。車列の中に一台、異彩を放つ車がある。まるでパレードの山車のようなギラギラした車が少し遠くに見える。
上には白い浴衣を着た女の人が踊る。曲にのってユラユラと動く姿は、何となくその場を盛り上げている、っと感じた。でもその特殊な車は、何なのかは分からない。
僕は優鬱な気分だった。お祭りの様に賑やかだけど、何回も見ている夢。結末が分かっている。
当時5人家族だった我が家も車を出す。しかし、いつも車が動かなかったりして、東京に着いた試しがない。
ああ、またこの夢だ。小学生だった僕にとって、悪夢というものは畏怖するものだ。もしも向かわなければ、家の中に大男達がやって来る。僕は洗濯物を崩して上に被せて隠れるが、見つかってしまう。そして僕は殺される。
いつもいつもそう。殺されたこともないのに、何度も僕はこの同じ夢の中で殺される。
何度も何度も。
僕は前世、誰かに殺されたのか?
大男が来るのは、車が動かなかったりして、もう東京に行けないと確信した時。周りの家々が騒がしくなる。悲鳴が聞こえるんだ。僕達も家に入り、それぞれ隠れる。
だけど今夜の僕は違う。台所へ行き、包丁を手に取った。根拠も無いのに、勝てる気がしたんだ。そしていつも隠れていた脱衣室へ向かった。復讐という名目であの大男達を今夜、殺す。
大男二人が玄関から入ってきたのが見えた。目の前の廊下を真っ直ぐ歩けばこの脱衣室だが、彼らは左の階段に向かった。大男達は2階に上るのが分かった。
それから間もなく階段を降りてきて、こちらに向かってくる。遂に来た。僕は包丁を持ち、ドキドキしながら立っていた。
だが僕は少し唖然とした。大男は、大男ではなかったのだ。八十代とも言えるシワシワの細い顔。いつもはもっと若い、しかめっ面の男だったのに。
だが僕は、その老人が殺しに来たと感じた。
すると老人が襲いかかってきた。
取っ組み合いになり、老人は床に倒れ込んだ。
僕は包丁を老人の腹に刺した。
老人は眉にシワを寄せ、こちらを見た。
その後の僕はというと、思い返すと自分が恐ろしく思える。釘を打つように手で包丁を叩き、どんどん腹の中へと刃が進むようにしていく。
僕は、笑っていた。
夢はここで終わる。
人を殺したことは勿論無い。
だが僕は夢の中で人を殺した。
何度も殺され、そして殺した。
僕の笑みは何からきたのか。
復讐が出来たからなのか、それとも………
この夢はもう、それから見なくなった。
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