ヘアアイロン
私が朝の支度で最も時間をかけてするのが、ヘアアイロンだ。
髪は人の容姿の中でも特に大事だと思う。
私は幼い頃から癖っ毛で、髪がいつもぼさぼさだった。
こういうと大抵の人は口を揃えて「癖っ毛可愛いのに」と私に言うのだった。
この場で癖っ毛ではない人に一つ言っておこう。
癖っ毛の髪は、可愛くない。
またうねるだけでなく、膨張する。
艶がありゆるやかにウェーブする様な巻き髪では決してないのだ。
擬音をつけるとしたら、ぼわぼわ、ぐしゃ、ぼかん、だろう。
それを普通の髪に戻すのがいかに大変な事か十二分に知っている私は、癖っ毛が可愛いと褒められても「ありがとう」と頬を染めることはせず、ただ「わかってないね」と大袈裟に首を振るのだった。
私は、中学三年生の頃にヘアアイロンと運命の出会いを果たした。
初めて買って貰ったのはブラシの形をしたストレートアイロンだった。
半信半疑でそれで髪を二度撫でつけると、真っすぐとはいかずとも収まりがよく、以前より髪が綺麗に見えた。
なんでもっと早く出会わなかったのだろうか、と後悔するくらいに仕上がりに満足した私は、それから中毒の様にヘアアイロンを使った。
ある時は温度を180度で。
ある時は水を吹きかけて髪を濡らしてから使って。
無知とは人間にとって一番の敵だ。
愚かで純粋な私は、髪が綺麗になる事にデメリットは無いと思っていたのだ。
もし美容の神が私の髪に痛覚を与えたならば、私は涙を流して懺悔するだろう。
気付いた時にはもう髪は傷みに傷んでぱさぱさになっていた。
綺麗になるのに内側は傷んでいくなんて何て皮肉な事だろう。
まあ何事もそんなものかもしれない、髪も私も周りも。
それでも私はヘアアイロンを使うことをやめられなかった。
あの熱を通した時に生まれる艶や、傷んでいながらもサラサラとした手触り。
何より生きるのが少しばかり楽しくなったのだ。
女として、と言うと批判が飛んでくるかもしれないが。
小学校の頃は写真を撮られるのが嫌だった。
でも今は、髪が少し綺麗になったからそこまで嫌ではない。
いつ来るか分からない終わりを、少しでも綺麗な姿でいれるように。
そう願いながら、また明日も私は髪を焼く。
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