口紅


 私は化粧品の中で一番好きなのは口紅だ。

 口元が赤くなるだけで顔が全体的にぱっとする。


 小さい頃から顔色が悪く、いつも体調を心配され辟易していた私にとって口紅と言うのは魔法みたいなものだった。

 初めて口元に色を付けたのは、中学2年生の時だ。


 校則で化粧が禁止されていた為、薄く色のついたリップクリームをドキドキしながら塗った。

 その時流行っていた、甘い匂いのするリップクリーム。

 蓋を開けるとバニラみたいな香りがする。

 本当に淡い色なのだが、それでも唇が桜色に色づくとそれだけで温かい気持ちになった。

 私にとってはそれが最大限のおめかしで、決して顔が美人になるわけではないのだけれど少し可愛くなれたように思えたのだ。


 そんな淡い年月が過ぎ、高校生になった私はパッキリとした色の口紅をつけるようになった。

 真っ赤ではないけれど、深みがかった色気のある赤。

 それを唇の真ん中に数回付けた後、指でぼかす。

 その血が滲み出たような赤色がとても好きだった。


 いつからか口紅は私の必需品になっていて、どんな時もするようになった。

 休みの日でも気づいたら塗る。

 きっと、私は人の為でなく自分のために塗っているんだろうと思う。

 クレヨンの匂いがする口紅を塗ると初めて私が完成するようだった。


 恋人と出かける時もそう。

 別に接吻をする関係でも無いので、グロスでもなんでも付け放題だ。

 それが嬉しいことなのかは分からないけど。


 幼い頃は、何故口紅を落としてしまうのだろうと思っていた。

 ずっと付けてればいいのにと。

 その理由が分かった今でも、私は落とさなくてもいいじゃないかと思ってしまう。

 だって人は唇に色が乗っていた方が断然美しい。

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