夢のショートケーキ


 現実で私はショートケーキがそこまで好きではない。


 だが人様の家で出されたら勿論喜ぶし、誕生日ケーキなども進んで食べる。

 でも何もない日に自分でご褒美として買おうとは思わないのがショートケーキ。

 あの甘ったるい感じは特別な時用で、日常には甘すぎてしまうのだ。


 どちらかというと、チョコレートケーキの様な少しビターを感じる方が食べたい。

 それに牛乳があればなお良し。



 でもそんな私が、食べてみたいと思うショートケーキがある。


 それは小さい頃に小説で読んだ、“夢の”ショートケーキ。

 私がこれを食べる事も、再現して作る事も出来ないのにはクリームに理由がある。


 そのクリームは、人の夢が砕いて入れてあるのだ。

 それだけ聞くと物騒だが、将来的に何かを求める夢ではなく、夜に見る夢を砕いて入れたものなのだ。


 夢の入ったクリームはキラキラしていて、それこそ幸福の味がするという。

 一口口に入れたなら舌はとろけてしまうような幸せ。

 まるで麻薬の様な味わい。

 うろ覚えだが、表情のない主人公がクリームを一舐めしただけで目を輝かせ感動していたような記憶がある。

 それほどの美味しさなのだ。


 勿論私は人の夢の味は知らないが、何故かその小説を読んだ時に味が想像できてしまった。

 人の夢の結晶を混ぜ込んだクリームがどんな舌ざわりなのか。

 どのくらい甘くて、どのくらいの軽さなのか。


 想像すればするほど食べたくなった。

 だって夢なんぞは誰も食べたことがないでしょうから、きっとこの世界の誰も経験した事の無いような味がするのだと、私はずっと夢見ていた。

 年が経つにつれて、幸福の味は化学調味料みたいなものなのかと考える程にはつまらなく育ってしまったが。


 もしこの先技術が進歩して夢が実体化することがあったならば、私は全財産をなげうってでもショートケーキを作ろうと思う。


 ただし、一番幸せそうな顔をした人の夢を使って。

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