茶碗蒸し
茶碗蒸し、というのは本当に魅力的な食べ物だと思う。
というのも、卵がそこまで好きでない私が珍しく自分から進んで食べる料理であったからだ。
小さいときの私が知り得る茶碗蒸しが食べられる場所といえば、寿司屋だった。
いくらお寿司でお腹がいっぱいになっても、あの魔の食べ物は喉に詰まることなくするっと食べることができる。
姉もまた茶碗蒸しに取り憑かれた一人であるために、魚介類が嫌いでも寿司屋に来て卵焼きと茶碗蒸しといくらを食べていた。
――お分かりかとは思うが、姉は私と正反対で卵大好き人間なのである。
姉の誕生日には卵焼きが並ぶくらいには。
まあそれはいいとして、茶碗蒸しは限定的な場所でしか食べられない物だという認識があった。
そんな私の常識を変えたのは、数年前の姉の一言だった。
受験期に机にはりつく勢いで勉強していた姉。
休日にそんな姉を見て応援したいという気持ちが芽生えた優しい妹は、姉に
「何が食べたい?」
と聞いた。
すると姉は、ペンを止めてこちらを見ると
「茶碗蒸し」
と答えた。
私は当然のことながら困惑した。
茶碗蒸しは作ったことがないし、自分が作れるとも思わない。
それでも茶碗蒸しと呪文のように唱え続ける姉にはかまわず、仕方なく携帯でレシピを調べる。
すると驚くことに、電子レンジで作れるというではないか。
白だし、卵、水、具材、たったそれだけ。
勿論家に蒸し器などという物もなく、コップに具材を入れてぐるぐるする。
そしてレンジでチン。
少ししてコップを取り出すと、振動で表面がふるっと揺れた。
もしかすると、本当にあの茶碗蒸しというやつが出来てしまったのではないか。
ドキドキしながら一口食べると本当にあの茶碗蒸しで、感動した私は一人でにまにまとしながらほぼ完食した。
姉は不満そうな顔もしながらも、一口食べると「仕方ないね」と言った。
白だしの優しい風味と、とろとろとした食感が本当に美味しくて。
突然なので具はほぼ無かったが、それでも十分だった。
自分で作れることを知ってしまった私は、それからというものの茶碗蒸しを狂ったように作って食べるようになった。
姉にせがまれて作るのも、何となく嬉しさがあった。
具を変えれば飽きないし、カロリーも高くなく、簡単に作れる。
何より温かくて柔らかい味の茶碗蒸しは、お腹を結構満たしてくれる(というとひもじく聞こえるかもしれないが)
勿論がさつな作りなので、多少すは入ってしまうが味には関係ない。
ご機嫌な私なら、それが手作りの醍醐味だとでもいいように言う。
そう、美味しければいいのだ。
多少の事には目を瞑る。
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