ぬいぐるみ


ここだけの話、私は中学一年生までぬいぐるみと寝ていた。

抱いて寝るまではいかないが、毎日二匹のぬいぐるみを枕元に置いていた。


一つは誕生日に貰ったある熊のキャラクターのぬいぐるみ。

もう一つは、ふわふわした薄い色のうさぎのぬいぐるみだった。

別に寂しさから持っていた訳ではなく、ぬいぐるみは気づかぬ内に私にとって一種の睡眠安定剤になっていたのだ。





いや、嘘をついたかもしれない。

心が幼かったわけではないが、私は極度の怖がりと寂しんぼうだった。

小学生の頃は母と一緒の部屋で寝ていたものの、成長につれ大きく育っていったプライドがそれを許さなくなっていった。

一人ベッドで寝る寂しさを埋めるために抜擢されたのが、彼らだった。

長い間私の睡眠を枕元で支えて貰っていた。



だが、今私の枕元には誰もいない。

それは私が大人になった事を示しているわけではなかった。

今でも外の風音に大袈裟に驚き、いきなり物が落ちたものなら心臓をベッドが軋む程に打たせ目を見開いている。


それなのに、何故彼らはいないのか。


一つ言えるのは、私はとても薄情な人間だった。

彼らとの別れは、本当に些細な事だったのだ。


ある時何気なく付けたテレビに映っていた心霊番組。

怖いものが苦手だが興味はある私は少し迷った末にリモコンを置き、息を潜めながら画面を見つめた。

幸い急に驚かしてくる様な番組ではなく、静かな語りと簡単なイメージ映像だけのものだったため少し余裕があった。


だが、見始めて少し経った時にその瞬間は訪れた。

察しのいい方はお分かりだろう。

そう、ぬいぐるみが題材の怖い話だった。


日本人形等の怖い話は定番だったし、実際そういう人形は見ないようにしていた。

だが、テレビに映ったのは一見愛らしい熊のぬいぐるみ。

内容はあまり見れず朧気であるが、画面の中のぬいぐるみと目があった時に私の中で一瞬にして何かが音を立て崩れた。


テレビを消し、何故か足音を立てずに部屋に向かった。

いつも私を見守ってくれている可愛らしい彼らをそろりと覗き込む。


いつもと変わらないな瞳。

そして確実に何かが変わってしまった私。


この日を機に、私は意図せずぬいぐるみを卒業したのだった。


思い返しても、自分の理不尽さと単純さには溜息が出る。

この前ふと思い出し罪滅ぼしにと埃を被った体を洗ってあげたが、恨まれては無いだろうか。

押し洗いの時には、最大限の感謝と謝罪を指先に込めた。

伝わっているかは別として。



この文を書いている時も、顔をあげると彼らは机の棚で静かにお座りしている。

その目に、私はどう映っているのだろう。

知りたいような知りたくないような、複雑な気持ちでぬいぐるみの頭を撫でた。

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