そして私はここに立つ

 シンプルにとても上手いです。書簡形式が非常に合うお話で、じわじわと忍び寄ってくる不穏さの演出が巧みであり、最終話ではぐるっとひっくり返される感じが堪りません。締めの一文には切なくもなり、客体でしか表現されていなかったはずのおばあちゃんの涙が見えるかのようでした。
 ホラーミステリの読み口です。ジュージさんは伏線回収や転調のタイミングが本当に巧みで、えびす神社も言わずもがなでした。こういうの書きたいんだけど書けないんだよなー! と一人で悔しがってしまいましたね……。
 日本神話(古事記)に絡めてくる手腕にも唸りました。なるほどえびす神社……と驚き背筋が寒くなると同時に思わずにやついてしまいました。情報の管理が本当にお上手です、ホラーでぞっとすることが少ないのですが開示の瞬間の粟立ちは本物でした。これはすごいです。
 代償を支払ってでも叶えたい祈りというものもまた存在するんですよね。これが愛ゆえの業です。人間が人間たる所以かと思います。おばあちゃんの「信仰」は罪だったかもしれません。それをおばあちゃんもわかっているからこそ、絶対に中を開けるなと言ったのでしょう。
 構成の上手さとともに、愛を多段に感じるお話でした。

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