君や僕の異能の行方

主人公の異能の絶妙な使えなさ(他に比べるとどうしても見劣りする)が上手く生きていて、その使えなさ故に主人公は誰かの異能により起こり得た不可解な現象を解決するため、常に思考を巡らせている。時には受験勉強を疎かにするほど、異能を得て困っている(であろう)人を放置出来ない。この実直な部分が大変好感が持てる。
また、最後まで読ませてもらい確信したのだが、一章の段階から「時計の上に置かれる謎のモチーフ」という読者全体を引っ張る要素が秀逸で、あの時計の上のものは一体…?と正解が知りたくなり読み進む。答え合わせに現れる人物もなるほどなと唸った。
チェーホフの銃というものがあり、誰も発砲することを考えもしないのであれば弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない、という作劇の話なのだが、この作品は時計の件もその他の能力者についても無駄がなく、特に最後の展開にはぐっときた。話の運びが非常に上手いし、締めの章の最後の一文は解決したなあと肩の力を抜くのにちょうどいい。主人公周りを固めるのは女性キャラが多く、軽妙な語り口には笑みがこぼれることもあってかわいいメインヒロインもいるため、ちょっとしたラブコメとしても楽しめる。
というように、読みやすい文章と構造がまず目を引くのだけれど、この小説の本質は異能やミステリよりも青春や絆の形成だと思う。
異能を得たキャラクター達は能力の代償として様々なものを失ってしまう。それは主人公も同じなのだが、彼は「しょぼい」と自認する自らの能力で、様々なものを失った周りの人々を助けようと奮闘する。その足掻きに見える光は青春物の輝きで、惹かれるのは読者だけではない。周りを固めるキャラクター達も同じ思いだ。そしてその思いが最終章に向けて収斂する、爽やかなカタルシスがある。

異能によりちょっと変化して、でも根本的にはやっぱり変わらない等身大の青春を是非読んでみて欲しい。
面白かったです、完結おめでとうございました。

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