君の異能がわかったとして

姫路 りしゅう

止まった時間が動くまで

止まった時間が動くまで・序

 最強の異能とはなんだろう。


 、僕はそんな間抜けなことを考えていた。


 初めに感じたのは圧倒的な静寂だった。

 世界は音で満ちている。授業をする先生の声。黒板に板書する音。グラウンドから聞こえる体育の音。椅子を引く音。衣擦れ。呼吸。

 それらすべてが一瞬にして去り、世界が静寂に包まれる。

 ――圧倒的な孤独感。

 世界に自分だけしかいないような感覚。

 普段は意識すらしていなかった自分の呼吸や鼓動の音が恋しくなる。


 音がなくなったことに驚き思わず立ち上がろうとして、すぐに自分の体が動かせないことに気が付く。立ち上がれないだけじゃなく、首、指一本すら動かせない。

「――ッッ」

 叫ぼうとしたけれど、もちろん声も出ない。


 何が起きている?


 隣の席に座っているさほりんの方を向こうとして、すぐに体が動かないことを思い出す。

 くそ、自分で解決するしかないのか。

 僕はそう自覚して、諦めてゆっくりと深呼吸をしようとした。できなかった。


 まずは現状を整理しよう。

 ここは桜塚北高校の三年七組。数か月後に受験を控えている上に、もうすぐ二学期の中間テストがあるので教室はどこかピリついた雰囲気がある。

 今は物理学の授業中。先生が練習問題の解説をしているところだった。

 そんな中、突然音が聞こえなくなり、体も動かなくなった。よく見ると、前の席の奴も板書している先生も動きが止まっている。

 人間の動きが止まっている?

 いいや、風で窓や木が揺れる音も、鳥などの動物の声も完全に聞こえない。

 ならば、世界全ての動きが止まっているのだろう。

 もしくは僕だけが世界から取り残されてしまったか。他のみんなは普通に生活をしていて、僕だけが固まっているのかもしれない。

 そのどちらなのかは、現時点ではわからない。

 考えてもわからないことは考える必要がない。考えてわかることだけ考えればいい。


 この現象に関して今わかるのは、ひとつだけ。


 この現象は、


 この現象を引き起こした人間は、天曳てんびきの力の能力者だ。

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