自分の強さに苦悩するヒロイン

  • ★★★ Excellent!!!

『灰髪のアーシャ』は、スケールの大きな世界観をもつ物語です。

物語のはじまりは、「紅蓮の魔女」と呼ばれる伝説の少女。彼女が発動させた強大な炎は、世界を焼き尽くしてしまう。

世にいう「炎の百日」、そして、それから1000年。「豊かな自然に恵まれた大地は、燃え続ける炎に焼き尽くされ、後には灰に覆われた荒野だけが残った」(第1話)。

――メチャクチャかっこいいですよね、この世界観!

話の中心になるのは、孤児院で育った2人の幼なじみ、アーシャこと、アナスタシア・ストラグルと、ダニーこと、ダニエル・アミキータ。

このレビュー執筆時点で、第4章まで連載が進んでいますが、序章は、成長したアーシャとダニーが、17歳の「成人の儀」を迎え、孤児院から巣立っていくまでを描きます。

アーシャたちを待ち受ける運命は、ときに悲しく、ときに過酷で、さまざまな苦悩や犠牲をともないます。2人は、行く先々で個性的な人物たちに出会い、ともに問題を克服し、成長していく。

その様子を見守りながら、読者は、いつか2人が――子供のころかいま見たような――幸せな世界を取り戻せるよう、祈ってしまうにちがいありません。

さて、物語は主にアーシャの視点から語られるのですが、彼女は、あの紅蓮の魔女を思わせる炎の魔力をもっています。しかも、この魔力のコントロールがうまくできず、たびたび暴走させてもいる。

この設定が『灰髪のアーシャ』の要になっているといってよいでしょう。

アーシャが直面する課題は、力を身につけて強くなることより、むしろ、この力をどのように制御していくか、なのです。

彼女が最も恐れるのは、敵ではなく、自分のなかに秘められた強大すぎる魔力。強大すぎるからこそ、ともすると、愛する人までも傷つけてしまう。あるいは、自分自身までも滅ぼしてしまう。

だからアーシャは、物語が進むにしたがって、自分が戦うべき相手は誰/何なのか? なぜ戦わなければならないのか? を真剣に考えざるをえなくなります。

ある登場人物が語る「恐いのは力そのものではなく、それを使う者の魂」だという言葉(第9話)は、物語を進める中心テーマのように聞こえます。

はたして、アーシャとダニーは、それぞれの困難を乗り越えることができるのか? また、2人が戦う相手はいったい何者なのか?

物語は、まだまだこれからいくつもの山場を迎えそうです。読み進めるにつれて、作者さんが周到に用意した伏線がみごとに回収されていくのも、この作品の大きな魅力といえるでしょう。

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