広くはないけれど開かれた世界

  • ★★★ Excellent!!!

舞台は、放課後のファーストフード店。

りーみょん、ナホチ、そして私(ゆずこ)のJC三人組が、会話に興じています。

「遠藤は私たちの祭壇に捧げられた生贄だ」

――なんて物騒な文章とは裏腹に、彼女たちの話題は、はたから見たら他愛ないもの。

同学年のイケメン君がとっても気になるナホチ。りーみょんは、彼氏とお付き合いをはじめたばかり。

そんな二人は、「気になる子」すらいないなんて人生最大の不幸と言わんばかり、「で、ゆずこは?」と謎の同調圧力をかけてくる。

容易に想像できるとおり、ゆずこたち中学生の生きる世界はまだとても狭いものです。教室と塾とファーストフード店を超えた広がりは、いくらもない。

でも、クラスメイトの男子の話題を通して、彼女たちはどんな子が自分に合っているのか、真剣に探っている。大げさにいえば、世界のなかで自分のいるべき場所を見定めようとしているのでしょう。

そして、その位置は、彼女たち一人ひとりの性格や関心の向きに応じて、すでにさまざまな違い(グラデーション)を示しはじめているのです。彼女たちの世界はまだけっして広くはないけど、開かれている。

本人のあずかり知らぬところで生贄にされてしまった遠藤くんに、そして自分たち三人に、ゆずこはそっと幸せを祈ります。その祈りがかなえられることを、本作を読み終えた読者もまた祈らずにはいられないでしょう。