新興宗教に翻弄され、崩壊してしまった家族の物語です。
一家の母親・久美子が、幼少期から蓄積された苦悩から救いを求めたのが、怪しい『信仰』の道でした。
お勤めや高額なお布施、子供への躾に至るまで、教団の『教え』に染まってしまった母のせいで、一家は悲惨な末路を辿ります。
教祖によるマインドコントロールに加え、信者同士の競争心を煽るシステムなど、こうした宗教にハマっていく人の心理が非常にリアルでした。
信仰の自由があるとはいえ、親の信仰を押し付けられる子供たちに自由はありません。
未婚のまま妊娠し、久美子から関係の断絶と教団からの排斥を言い渡された娘・沙羅の視点から、母親の抱えた事情や恐るべき事実を追っていく展開。
一つひとつと背景が明らかになるにつれ、胸が締め付けられるような苦しさを覚えました。
久美子が子供たちに向けていたものは、紛れもなく『愛』だったはずなのに。
どうしてこうなってしまったのか。あまりの遣る瀬無さに、何度も涙が溢れました。
それでも、ラストはまるで霧が晴れるように、希望の光が見えました。
これからは本当の幸せが彼らに訪れるようにと、祈らずにはいられません。
深く心に刻まれる物語。きっと一生忘れられないお話だと思います。
生きていく辛さに堪えかねて、新興宗教にハマり、その結果として大切な家族を次々と失っていく…。
重い内容ですが、次を次をと読みたくなって、ページをクリックする手が止まらなくなりました。読みやすい文章と、リアルなエピソードのスピード感溢れる展開。作者である星都ハナスさんの筆力とこなれた構成力の賜物でしょう。
私はこの物語りを読みながら、ずっと自分の心と対話していました。
「私だったら、どうする?」
「そういえば、あの時の私は…」
物語りはハッピーエンドながら、ある程度の人生経験のある読者であれば、登場人物たちの将来に一抹の不安もまた覚えるはず。
破壊と再生を繰り返しながら生きていく人間の、哀れさと健気さに注ぐ作者の視線の優しさに救われます。
新興宗教に溺れる人、そしてその二世と呼ばれる子どもたちの葛藤を描いた作品です。重たいテーマではありますが、文章が非常に読みやすく、展開が早いので、巻き込まれるように先を知りたくなります。
主人公沙羅の母である久美子の宗教への浸り方、その心理描写が恐ろしいほどにリアルで、そこへ没入している人間の思考回路を克明に見せてくれます。また、なぜそこへ縋らなければならなかったのか、久美子の背景も語られることでよりその心の闇を理解することができるのです。そんな人の心の闇を利用し食い物にする宗教集団の体質も、不気味に炙り出されます。
この作品で登場する二世は、生まれながらにして自由を奪われた子どもたち。自分から何も選ぶことができず、おびえながら掟に従わなければならない彼らこそ、真の被害者と言えるのではないでしょうか。
縋るべきものは水晶ではなく、もっと別なもののはず。最終的に久美子が選んだものは何か、これは怒涛の後半部分で見届けてください。
凄まじい物語ではありますが、読後は希望と清々しさを感じる作品。
ぜひ手に取って頂きたいと思います。
「沙羅」と「双樹」。
二人は新興宗教にどっぷりとハマった母親・久美子のもと、生まれた時から厳しい教えを叩き込まれてきました。
幼い頃は教え以外を知らずに育ち、成長していくに従って、歪んだ教義、体制に疑問を持ち始め…
ついに、母親と対立するようになります。
宗教が原因で瓦解した家族。
妊娠し、新しい命を生み出そうとする沙羅。
あくまでも宗教の教えを押し付けようとする久美子。
家族の葛藤、衝突が、息もつかせぬ展開で、沙羅と双樹のみならず読者をも翻弄し続けます。
身近な家族が、歪な宗教を盲信していたらどうなるか。
そこに本物の家族愛は存在するのか。
多くのことを教えてくれる、読み応えのたっぷり詰まった名作です。