患者失格「太宰治さま、ご免なさい」

太宰治作品の語り口で、
淡々と書かれる、『歯医者での一コマ』…。

太宰治が好きな人には、キャッチーな作品かもです。

　物語は、親知らずの痛みに耐えきれず、歯科医を訪ね、診療台に乗せられているところから始まります。

　それ以前に、場所と時間と状況の描写がなされてはおりますが、そこを素通りされるのか、感じ取られて立ち止まるのかは、読者さまに委ねられているのです……。

　あ、ダメだ！　わたしに太宰治風の文章は書けなかった。
　と、言うように、主人公の葛藤が、歯科医の困惑が、ふたりの壮絶なやりとりが、文豪作品の体をなして綴られています。これほど、全編が古い分体で綴られているのに、どうして、こんなにも笑えるのだろう……。

　この言い回しのおかげなのだろう、主人公のささやかな抵抗はかわいらしく写り、歯科医の説得…続きを読む

太宰治への愛がひしひしと感じられ、太宰文学へのオマージュが詰まった作品です。舞台は現代の歯科医院です。
あちらこちらに太宰文学が散らばっていて、「あ、これはあの作品だ！」などと発掘していくのも面白いです。
大真面目な文体で内容が抜歯なので、そのちぐはぐさにも笑ってしまいます。
親知らず抜くの大変だもんね、としみじみ思いました。

太宰治にごめんなさいするよりも
歯科医の先生にごめんなさいするべきでは？笑

太宰治の独特の表現が
抜歯への恐怖の際に咄嗟に出てくる程の
太宰好き。そんな作者が地獄へ足を踏み入れました。

恐怖に対する太宰の表現、考え方。
僕の個人的な感想なんですけど、
彼は嫌な目に遭えば遭うほど、逃げ、葛藤、苦しみ、昇華、諦め、先延ばし、正当化……。なんとかして人間くさくもがいて、結果生き生きと見えるんです。生き生きとは正反対っぽいですけど。

歯が痛い時の歯医者って、虫歯が出来たことの無い人以外は皆、経験があると思います。
あの恐怖。抜かなければ改善はしない。それが分かっていても、分かっているからこそ、…続きを読む

歯医者での体験談ということになりますが、文章、ユーモア、アイロニーなど、太宰治を彷彿させるものばかりでとても楽しい作品です。ああ、こういうものをもっと読みたいです！

それこそ太宰治ファンに怒られそうです。
でも笑えるんですよこの文章。

»「私の世界は一瞬にして地獄の業火に包まれ燃え上がるのを眼前で見るような心地」

ちなみにこれ、歯医者に「怖くはありませんよ」と言われた時の心情です。いや怖いよ歯医者。「怖くないよ～」って本人が自称するのがいちばん怖いってば！

これで噴き出した人は多分私と同じギャグセンス持ってますね……。

他にもセンス溢れる文章で、手に汗握る緊張感ある様子が描かれます。（※場所は歯科医院です）