あなたは、どんな物語に感動しますか? どんな内容に心を動かされるでしょうか?
磨かれた綺麗な文章? 考え抜かれた舞台装置? 思いもよらない展開でしょうか?
もちろんそれらにも感動しますが、僕は特に登場人物達の思いに触れた時に感動します。やはり物語を構成する大きな要素の一つは人の思いなのだと思います。
空草 うつをさんの『千寿菊と散る』はその思いの集合体です。そこには、愛情があり、嫉妬があり、絶望もあるでしょう。それら全てが、思いなのです。
僕は読み終わったあと「恋心はどこまでも普遍で、どこまでも愚かで、だからこそ美しいんだな」と思いました。
次はあなたが読んで感じてみて下さい。そして、あなたの感じた事を教えてほしい。そんな風に思える作品です。
有名画家が、絵を描かなくなった。それを知った美大の同級生の主人公は、同級生名簿を取り出して、画家に電話をかける。主人公は、密かに画家に思いを寄せていたのだ。しかし、画家は大学時代から絵のモデルをしていた美女と結婚していた。
電話に出たのは、画家本人だった。画家は四年前に両親を亡くし、あることがきっかけで、妻と別れていた。そのあることとは、妻が旅行に行っている際に、画家のもとを訪ねてきた美しい少女を、絵のモデルとしたことだった。モデルを務めていた妻はこの少女に嫉妬し、夫に激昂し、家を出て行ったと言うのだ。
そして画家が亡くなり、美術展で画家の遺作が発表された。そこにはマリーゴールドの花と、一人の少女が描かれていた。その会場で、主人公はある男から、画家が残したと言う手紙を受け取る。そこには、遺作となった絵の秘密が書かれており、主人公はマリーゴールドの花言葉を思い出す。
しかし、この男を雇っていたのは、実は画家の元妻だった。
果たして、遺作のモデルになった美少女は誰だったのか?
そして、男は何故元妻に雇われ、何をしたのか?
一人の天才画家を巡って、苛烈で強かな女性たちの感情の物語が今、幕を開ける。この愛と嫉妬がマリーゴールドの花を咲かせ、マリーゴールドの起源神話にまで達する時、名状しがたい余韻に浸ることになる。
最後には謎解き要素があり、人間の業の深さを感じさせられます。
是非、ご一読ください。