概要
「お姉ちゃんの小説は面白くないから読みたくない」
高三の夏、妹と一世一代の大喧嘩をした。
仲直りは、まだしていない。
***
かつて私たちは仲の良い姉妹だった。
母と妹、そして父。ありふれた機能不全家族の、薄っぺらいクッションが私だった。
だけど、それほど苦ではなかった。
母が私だけに与えてくれる、ひとかけのイチジクがあったから。
それに、シャーペンとノートさえあれば、私は妹とどこへだって行けたから。
※この物語はフィクションです。実在の人物、地名などには一切関係ありません。
仲直りは、まだしていない。
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かつて私たちは仲の良い姉妹だった。
母と妹、そして父。ありふれた機能不全家族の、薄っぺらいクッションが私だった。
だけど、それほど苦ではなかった。
母が私だけに与えてくれる、ひとかけのイチジクがあったから。
それに、シャーペンとノートさえあれば、私は妹とどこへだって行けたから。
※この物語はフィクションです。実在の人物、地名などには一切関係ありません。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!たった一人の読者のひとことは、作者を生かしもするし、殺しもする。
「お姉ちゃんの小説は面白くないから読みたくない」
このひとことを放った妹、言われた姉である主人公。
母の「特別」なイチジクの実。
家族って近くて他人で、見ているものは同じでも、見えているものは違うのです。
私も学生時代に、ひとつの大長編を書いていました。
物語を書いている間は、うまくいかなくてしんどい現実から離れることができました。
自分の生み出したキャラクターたちが、自分では行けない場所で、自分ではできない剣と魔法を使って、自分では成し遂げられない偉業を果たす。
想像力は限りなく、果てしなく自由です。
思春期特有の、行き場のないストレスをそこにぶつけていたように思います…続きを読む - ★★★ Excellent!!!生煮えの野菜のような、ごろごろして呑み込めないわだかまり
それでも、少しだけ前を向ける結末がとても素晴らしかった。
主人公のぎこちない家庭や、かつて仲が良かった妹との決裂は、端から見ると他愛のないもの。けれど、そこから逃げ出せないほど幼く、小さな世界しか持たない子供たちにはあまりに切実なことだった。
あくまで家族の体裁を保ちながら、心暖まるよりも、居心地が悪いばかりの家族というものは、おそらく世間にあふれている。その実在感を細やかに描き出す筆致は見事の一言。
思い出の中、幼い自分達が求めた甘美は二度と手に入らない。タルトを前にしたこのくだりが、私には特に悲しく、切なく思えました。
小さな世界から羽ばたく力だったノートとシャーペン、今はパソコンに変…続きを読む