「お姉ちゃんの小説は面白くないから読みたくない」
このひとことを放った妹、言われた姉である主人公。
母の「特別」なイチジクの実。
家族って近くて他人で、見ているものは同じでも、見えているものは違うのです。
私も学生時代に、ひとつの大長編を書いていました。
物語を書いている間は、うまくいかなくてしんどい現実から離れることができました。
自分の生み出したキャラクターたちが、自分では行けない場所で、自分ではできない剣と魔法を使って、自分では成し遂げられない偉業を果たす。
想像力は限りなく、果てしなく自由です。
思春期特有の、行き場のないストレスをそこにぶつけていたように思います。
そして、同じようなストレスを同じように発散していた方は、おそらく大勢いらっしゃるのではないでしょうか。特にここのような小説サイトで活動しているのであれば、きっと。
そんな方におすすめします。
それでも、少しだけ前を向ける結末がとても素晴らしかった。
主人公のぎこちない家庭や、かつて仲が良かった妹との決裂は、端から見ると他愛のないもの。けれど、そこから逃げ出せないほど幼く、小さな世界しか持たない子供たちにはあまりに切実なことだった。
あくまで家族の体裁を保ちながら、心暖まるよりも、居心地が悪いばかりの家族というものは、おそらく世間にあふれている。その実在感を細やかに描き出す筆致は見事の一言。
思い出の中、幼い自分達が求めた甘美は二度と手に入らない。タルトを前にしたこのくだりが、私には特に悲しく、切なく思えました。
小さな世界から羽ばたく力だったノートとシャーペン、今はパソコンに変わったその翼で、彼女がもっともっと自由になれますように。