甘さよりも、現実的な苦さを味わうための青春小説

 旅や出会いには、前向きな期待と不安が付き物だと思います。ですが、この物語の場合は、まだインターネットもスマートフォンもない時代の物語なので、まるで灰色の濃霧を手探りで進んでいくような期待と不安が付きまとっています。

 なんの前情報もなく、地元を離れて旅するとなれば、まさに冒険をしなければならないのです。しかも昔の日本は、今なんかよりよっぽど荒々しい気性の持ち主が多かったため、たとえこの物語の主人公のようにまだまだ少年と呼べる年齢の若者であろうと、容赦なく対応するわけです。

 だからこそ、すべてがハッピーエンドに終わるわけではありません。少年の冒険そのものは、人生経験の糧になったはずです。しかし物語の中で出会った年上の女性は、ブラックコーヒーよりも苦い結末を迎えることになります。

 そんな現実的な苦さを味わうことで、己の心に一石を投じたい人は、ぜひともこの物語を読みましょう。