旅や出会いには、前向きな期待と不安が付き物だと思います。ですが、この物語の場合は、まだインターネットもスマートフォンもない時代の物語なので、まるで灰色の濃霧を手探りで進んでいくような期待と不安が付きまとっています。
なんの前情報もなく、地元を離れて旅するとなれば、まさに冒険をしなければならないのです。しかも昔の日本は、今なんかよりよっぽど荒々しい気性の持ち主が多かったため、たとえこの物語の主人公のようにまだまだ少年と呼べる年齢の若者であろうと、容赦なく対応するわけです。
だからこそ、すべてがハッピーエンドに終わるわけではありません。少年の冒険そのものは、人生経験の糧になったはずです。しかし物語の中で出会った年上の女性は、ブラックコーヒーよりも苦い結末を迎えることになります。
そんな現実的な苦さを味わうことで、己の心に一石を投じたい人は、ぜひともこの物語を読みましょう。
中学二年生の勇希くん、東京から鈍行で遥々札幌を目指す…!
旅先で出会う人たちとの時に厳しくも暖かい交流。飛び交う方言。頼りない懐具合を気にしながら啜るラーメン。ぼったくりの安宿。
そして、ミステリアスな年上女性との切ない思い出…。
14歳は大人と子供の境界に立つ年齢です。
親や教師に反発し、広い世界を見たくて遠くを目指すも、己の非力さに打ちのめされ、お母さんのおにぎりに涙を流し、お父さんが忍ばせた封筒の中のお小遣いに救われる…。
アンビバレントな感情に引き裂かれながらも、ひたすら足を止めない彼の姿に、いつかの自分を見る思いでした。
それにしても、たった17話でこの濃密さ!
さながら少年版深夜特急。
なかなか旅に出られないこのご時世だからこそ、広く読まれてほしい名作です。