白銀の、髪に落ちたる、月影よ。

基本的にレティリエの目線から物語が綴られるので、ついついレティリエに感情移入する、のですが……。
女性なりの愛とか、恋とか、それにまつわる淡くて苦い感情とか、たくさん詰まっていると思います。愛する人のためを思って時に覚悟を、時に決意を、そして時に涙を流す場面は本当にため息が出るというか、この女の子には幸せになってほしいと心から願う。
けど僕は、番外編での描写も含めて、レティリエの恋する男性グレイルに共感しました。
力があって、優秀で、多分、欲しいものは何でも手に入る男でしょう。その気になれば(作品の世界観的にそれはないにしても)ハーレムくらい楽々作れるし、よくある俺ツエーのように向かってくる敵や獲物を一方的に攻撃できるかもしれない。
そんな男性が、身近にいた、何よりも大切な人を、守れなかったり、大切にできなかったり、危険に晒す羽目になったりして、不甲斐なさや情けなさをとにかく全身で感じる。男にとっては一番堪えるやつです。ヘビー級のストレートを顎に喰らうのより辛い一撃。彼は多分(レティリエが見えないところでも)たくさんそれを喰らっているはず(そんな想像をしながら読みました)。
基本的にはレティリエの視点です。彼女からしかグレイルが見えないことが多い。
でもちらりと見える男の心。ちらりとしか見えないからか、深みも重みも桁違い。
そしてそんな、自己嫌悪に陥りそうな男性に向けられる、最愛の女性からの「好きよ」。その一言だけで救われる気持ち、共感する男性多いと思います。もう一回、立ち上がれそうですよね。
恋愛の切なさ、という意味では女性は絶対楽しめるはず。ちょっと恋を味わってみたい男性、好きな人のために勇気が出せない男性、あるいは自分の不甲斐なさに打ちのめされている男性。意外と、っていうと失礼ですけど、恋愛ものって女性だけの文学じゃないんですよ。だから安心して、白銀の世界に、埋もれてください。

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