第6話 花火のあとには

支店長「いゃ〜、うまいっ!」

ヨシエ「しっかし。暑いね〜。」

主任「もう、夕方なのにねー。」

こうた「あっ、焼き鳥。」

ヨシエ「そーだ。18時に取りに行くって言ってあるから、そろそろだ。」

こうた「じゃあ、行ってきます。」

ユウコ「あっ、私も。」

主任「よろしくー。」


ビルを出て徒歩3分で着くが、初めて行くには少しわかりにくい。


ユウコ「あっ、こっち。」

こうた「へー、こんな狭い路地なんだ。」

ユウコ「わかりにくいでしょ。」


「あっ、まいど〜。」


ユウコ「お久しぶりでーす。」

店主「はいっ。できてるよー!」

ユウコ「ありがとうございまーす。」

店主「お代は頂いてるからっ。」

ユウコ「じゃあ。」


「ありがとうございまーす!」


こうた「あっ、持つよっ。」

ユウコ「ここの店、結構みんなで食べにくるのっ。」

こうた「そーなんだ。みんなここの支店に長くいるの?」

ユウコ「うん。私が一番短くて、それでも今年で5年目かな?」

こうた「へー。うちの会社転勤多いのになんかすごいねー。」

ユウコ「えっ?まだ転勤組?」

こうた「転勤組って?」

ユウコ「え〜っ!知らないの?」

こうた「???」

ユウコ「入社して2回くらいはみんな転勤するんだけど、だいたいの人は3回目で自分から希望の勤務地言うの。」

こうた「え〜っ、そーなのーっ!」

ユウコ「やっぱり知らなかったんだー。」

ユウコ「希望の勤務地言って、そこに空きができたらほぼ行けるの。希望だして、そこに行けたら余程なんかない限りずっとそこ。」

こうた「そんな大事なこと…今まで全然知らなかった〜。なんかショック。」

ユウコ「だから、ここの支店って入れ替えあるのは、あなたの枠だけなの。」

こうた「そっか〜。」

ユウコ「行きたいとこあったら、希望出しといた方がいいよ。」

こうた「そうかも。転勤疲れるし。」

ユウコ「今度、現時点で欠員出たりしてる地域調べてあげるか?」

こうた「えっ?そんな事わかるの?」

ユウコ「全部じゃないけど、いくつかの地域は大丈夫。」

こうた「じゃあ、参考までにお願い。」

ユウコ「いいよー。なんかいいとこあればって感じで。」


支店長「おっ、焼き鳥ー!」

主任「お疲れ様っ。」

ヨシエ「さっ、食べよかっ。」


焼き鳥はまだできたてでおいしく、ビールもおいしい。

だんだん辺りも薄暗くなって、そろそろメインの時間がやってくる。


ヒュー ドーン 

ドン ドーン 


ビルの屋上からの花火。

思ったより大きく、近い。

目の前の夜空に大きく散りゆく光と、耳のすぐ横まで響いてくる重低音。

こんなに間近で、しかもビルの屋上で。

夏に夏を沢山感じる日。

今までこんなに花火が綺麗に感じた事があっただろうか。

空から大きく垂れ下がる無数の光の中に、まるで自分が溶け込んでいくようで。


支店長「たーまや〜!」

主任「おー!」


ヒュー パン パン

チカッ チカッ


ヨシエ「あっ、終わり。」

支店長「うん。よかった。」

主任「あーっ、今年の夏も終わりかっ。」

こうた「えっ?まだ暑いですよっ。」

ユウコ「花火大会が終わると、夏はあっという間に終わっちゃうの。」

主任「夏のピークが花火大会。かな。」

こうた「そっかー。でも、今年の夏はすっごく楽しいです。」

支店長「うれしいねー。なんかっ。」

支店長「じゃあ、楽しく片付けますかっ。」

こうた「はいっ!」

ヨシエ「さっ、はじめるかー。」


大きなテントは明日にして、ゴミやレンタルのサーバーなど片付ける。

こんなに楽しい夏は今まであっただろうか?

そんな事考えながら、片付けも終わり。


支店長「それじゃ、解散っ!」

主任「じゃあテントは、明日俺とー、」

こうた「僕やりますっ!」

ユウコ「私もっ!」

主任「じゃあ、3人でやりますかっ!」


テントの撤去などは明日の午前中に3人でやるという事で、本日は解散。

駅で降りてユウコさんと途中まで一緒に。


ユウコ「楽しかったよねー。」

こうた「俺、こんな楽しかった夏は、今までなかったかも。」

ユウコ「そっか。転勤多かったんだ。」

こうた「次に行くとこは落ち着いて長く住めたりできたらいいな。」

ユウコ「大丈夫よ。そうできるように調べとくから、いいとこあれば希望だしなよ。」

こうた「いいとこか〜。」

ユウコ「住みたい場所、行ったことない場所、そういうとこないの?」

こうた「うーん。北の方はあまり住んだ事ないかなー。四季があるような北国は憧れっていうか、住んでみたいかもねっ。」

ユウコ「うん。それ聞けてよかった。調べやすいからっ。」

こうた「お願いしますっ。」

ユウコ「まかせてっ!」

ユウコ「じゃあ、また明日。」

こうた「うん。また明日。」


ガチャ

疲れたけど楽しい1日だった。

そんな充実感のなかシャワーを浴びて、得意のダラダラモードへ。


アヤ『おーいっ!』


こうた「あっ、今ロフト上がるわっ。」


アヤ『あっ、ごめーん。下にいた?』


こうた「いいよ。もう上がるとこだし。」

こうた「いやー、よかったなーっ!」


アヤ『えっ?なにが〜っ?』


こうた「えっ、なにがって、花火っ!」

こうた「友達と行くって言ってなかった?」


アヤ『…あっ、もー、私が先に言おうと思ってたのに〜!』


こうた「まーた、変なこだわり?」

こうた「いゃ〜、俺あんなに花火綺麗だって感じたことなかったかも。」


アヤ『ビルの屋上だっけ?大きく見えた?』


こうた「うん。音も光も凄くて。」

こうた「ホント凄かった!」

こうた「そっちは?」


アヤ『えっ?私は〜、友達と2人で浴衣着て〜、私たちもキラキラよっ!』


こうた「花火近くでみてたの?」


アヤ『うん。近く。あなたにも見せてあげたかったわよー。』


こうた「だから、見てたってー。」


アヤ『ちがうー。浴衣のわたしっ!』

アヤ『な〜んちゃってぇ〜。』


こうた「そうだな。もし、一緒にみれたらそれはそれで、また違って見えたのかな?」


アヤ『えっ!?わたしとっ!?」


こうた「うん。会った事ないけど、毎日話してるから不思議と他人って感じしないし。家族でもないし、友達?でもないし、わかんないけど、そんな人と一緒に見る花火。」

こうた「また違った花火に見えたかもね。」


アヤ『うん。私もそう思う!』

アヤ『どーしたの今日?普段そんな事言わないじゃない?』


こうた「花火大会終わると、あっという間に夏が終わるんだって。それ聞いてなんとなくセンチな気分になった。」


アヤ『そっかー。それでおセンチかっ。』


こうた「おセンチって言うなっ!」


アヤ『はいはいっ。』


こうた「俺たちの会話もさぁ、」


アヤ『なに〜?そこもおセンチ?』


こうた「いや、なんとなくさ。」

こうた「明日はもう声聞こえないかもって考えたら、少しは寂しいかも。」


アヤ『えーっ、少しはっ?少しっ?』


こうた「いや、凄く、でしたっ。」


アヤ『素直でよろしー!!』


こうた「言わせたくせにっ。」


アヤ『大丈夫じゃない?難しく考えないでさっ、今までみたいに気楽にやろっ!』


こうた「まっ、それもそーだっ。」


アヤ『あっ、冷蔵庫にシュークリーム入れといたからー。』


こうた「それっ、早く教えてっ!」


花火大会が終わり、楽しさと寂しさが同時に訪れ、少し寂しさが勝ってるような。

2人の距離にも少し変化が?

もう夏の終わりはすぐやってくる。

ただ、今はまだ終わらない夏を感じて。


第7話に続く

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