第10話 響き

アヤ『こうたくーん。』


こうた「ヤッホー、とかじゃないのは久しぶりに聞いたかも。」


アヤ『決まった。引越し。』


こうた「いつ?」


アヤ『来週末。』


こうた「結構急だなっ。」


アヤ『ほら、私の場合3月上旬ってのは決まってたからさ。もう引越し先のアパートも決まってるの。』


こうた「そっか。アパートっていつ見に行ったの?」


アヤ『見に行ってないよ。ネットで見て、家族に見に行ってもらった。』


こうた「へー。どんな部屋?」


アヤ『ロフト〜!』


こうた「えっ、ロフト?」


アヤ『うん。ここもそこそこ広いけど、次のとこはもっと広いの。ロフトの上も。』


こうた「ロフトかー。俺も今回で結構気に入ったかも。」


アヤ『私も。っていうか、こうたくんと話できたのが良かった。』


こうた「俺もそうだよ。」


アヤ『あっちでも、ロフトの部屋に住めばもしかしたらって、そんな事あるわけないのにねっ。』


こうた「でも、わからないよっ。この部屋でこうして話てるのも、引越してくるまでは想像もできなかったしさ。」


アヤ『そうね。この先どうなるかなんて誰にもわからないから。』

アヤ『神社でお願いしたしっ!』


こうた「えっ?」


アヤ『こうたくんにいつか会えますようにってお願いしたっ!』


こうた「きっと叶うよ。」


アヤ『まっさかーっ』


こうた「だって俺も同じお願いしたし。」


アヤ『えっ!?ホント?』


こうた「うん。異次元のつながりとか、パラレルワールド的なのだと無理っぽいけど。」

こうた「プリンやチキンやケーキは確かにつながって俺に届いたし。」


アヤ『私にも届いたよ。』


こうた「誕生日おめでとう!」

こうた「ほら、当日もういないじゃん。」


アヤ『ありがとうー。覚えてたんだ。』


こうた「25歳。」


アヤ『1つ違いか。』

アヤ『って、まだ24ですがっ。』


こうた「そっか、まだ2歳下か。」


アヤ『まっ、数週間だけど。』


誕生日を祝ってあげれない。

自分は祝ってもらったのに。

残り時間はもう少し。

あと少し。


アヤ『ヤッホー』


こうた「おっ、用意は出来てるよ。」


アヤ『じゃあ得意の冷蔵庫シェア。』


こうた「こっちはオッケー!」


アヤ『ケーキ!!』

アヤ『ありがとう。じゃ、半分に切るね。」


こうた「カンパーイ」

アヤ『カンパーイ!』


こうた「何回も一緒に食べたね。」


アヤ『うん。』

アヤ『こうたくん、今日まで色々ありがとうねっ。たくさん話したね。』


こうた「こっちこそ、アヤちゃん、今日までありがとう。」

こうた「しめっぽいのやめーっ。」


アヤ『そーねっ。でも楽しかった。』

アヤ『友達に言ったよ。』


こうた「信じてないでしょ。」


アヤ『それがさ、わかったー!信じられないけど信じるからっ!私に任せてっ!』

アヤ『だってさー。』


こうた「すごい単純であつい人だな。」


アヤ『任せて、ってのもおもしろくて。』

アヤ『でも真剣な顔してたから信じてくれたかも。』


こうた「よかったね。信じてくれて。」


アヤ『まっ、何回も任せてって言ってたけど、任せてもなにも、私明日引越しなのに。』


こうた「そうか、明日か、気をつけてって言うか元気でね。」


アヤ『あなたが転勤になったら私の事探してくれる?』


こうた「運命的に今回こうして話せてるなら、運命的にまた会える。」

こうた「探すよ必ず。」


アヤ『じゃあ、私の声だけで探すの?』


こうた「大丈夫。きっと会える。だから会う時まで、アヤちゃんの細かい情報とかはあえて聞かない。」


アヤ『じゃあ、私も聞かない。』

アヤ『1年でも2年でも会えるの待ってていいかなぁ?迷惑なら…。』


こうた「待っててくれるなら必ず探すから。待っててくれなくても探す!」


アヤ『私が待ってないのに探すとかはストーカーになっちゃうんじゃない?』


こうた「あっ、そーかっ。」


アヤ『うそっ!待ってる。絶対。』


こうた「小指出してっ!」


アヤ『右?左?』


こうた「うーん、右っ!」

こうた「約束!必ず会えるっ!」


アヤ『宇宙人となんかしてるみたいなポーズになったけど、伝わったっ!』


こうた「どんなポーズだよ〜。」


アヤ『えへっ。』

アヤ『なんかいつもみたい。』


こうた「明日には聞こえない。」


アヤ『こうたくん!』


こうた「うん?」


アヤ『待ってるから!』


こうた「うん。必ず!」


アヤ『じゃあしばしのお別れっ。』

アヤ『さようならっ、いやっ、またっ!』


こうた「うんっ!またっ!」


アヤ『ありがとう…。』


また明日には話せる気がする。

コウタはそんな気がしてた。

もう声は届かないのに…。


ユウコ「こうたくんさー。」

こうた「えっ?」

ユウコ「ふられた〜?」

こうた「なっ、いきなり失礼なっ!」

ユウコ「なんかうかない顔。」

こうた「そっかー?」

ユウコ「それか、転勤なかったから?」

こうた「それは残念だけど、別にそこまで急いでなかったし、ここの暮らしも気に入ってるしさっ。」

ユウコ「じゃあ、たこ焼きでも食べに行きますか〜、」

こうた「えっ、いきなり?」

ユウコ「お腹すかない?」

こうた「でっ、たこ焼きー?」

ユウコ「何か不満でも?」

こうた「行くかー!たこ焼き!」

ユウコ「おごりー?」

こうた「割り勘!」

ユウコ「ケチッ!」

こうた「ケチで結構。」

ユウコ「たこ焼きへレッツゴー!」


あれから数日。

ロフトの上にはもうなにもない。

これが普通でこれが現実。

最初から何もなければ今日という日も普通に過ごしていたはず。

最初から何もなければ。


ガチャ

見慣れたロフトの部屋。

この部屋は好きだ。

初めてのロフトも気に入ってる。

引越してきた日と変わらないはず。

初めてこの部屋に入ったあの日と。

いつものようにシャワーを浴びて。

いつものようにゴロゴロして。

そしていつものようにロフトへ。

快適なロフトの上。

文句なんかない。

時計の針は23時をすぎていて。

でもロフトは静かで。


こうた「おーいっ。」


声が響く。

こんなに響くのかと初めて気付く。

当たり前なのに。

これが普通なのに。

なにか足りない。

ただ、今はひとり眠るだけ。

静かにひとり…。


第11話に続く






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