第8話 やり残し

街はキラキラ飾られて聞こえる音もそれっぽくなって。

駅前の広場の木はいつのまにかクリスマスに模様替え。

会社の帰り道も今日はなんか違う景色。

そう、今日はクリスマスイブ。

いつもよりカップルや家族連れが多いのも1年で今日がピークだろう。

こんな世界観もたまにはいい。


ユウコ「ホント綺麗ね〜。」

こうた「いいねー。こういうのもさ。」

ユウコ「今日だけはみんなが特別に感じる魔法の世界って感じね。」

こうた「おっ、なんか詩人みたい。」

ユウコ「素直な気持ちよ。」

こうた「そーかー。たしかになー。」

ユウコ「来年はここでクリスマスかしら?それともホワイトクリスマスかしら?」

こうた「そーだよな〜。転勤してたらホワイトクリスマスかぁ。」

ユウコ「ホワイトクリスマスって素敵。なんか憧れるわ。」

こうた「たしかに。俺も経験ないし。」

ユウコ「来年はどっちだろうね。」

こうた「うちの会社転勤決まるの結構急だからな〜。2週間前ってのもあったし。」

ユウコ「たしかに、2週間前はちょっと大変かもねー。」

こうた「うちの会社なら、次もいつ言われるかわからないからな。」

ユウコ「あっ、ちょっとそこのケーキ屋さん寄っていい?」

こうた「えっ?予約してるの?」

ユウコ「うん。えっ?こうたくんも?」

こうた「まっ、一人だけどっ。」

ユウコ「私は彼氏いない女友達3人で。」

ユウコ「自分で言ってて虚しいな。」

こうた「俺は一人っていうか、一人。」

ユウコ「あっ、なんか意味ありげ〜。」

こうた「一人だよ。」

ユウコ「じゃあ来る〜?」

こうた「いゃ〜。おじゃまだし、女3人にまじってもさー。」

ユウコ「冗談よっ!」

こうた「家にいたくてさっ。色々と。」

ユウコ「あーっ、またなんか意味ありげ。」

こうた「いやっ、深い意味は…。」

ユウコ「冗談、冗談。私も深くツッコム気ないしさー。」

こうた「あっ、一応言っとくけど、二次元の彼女いるとか、そういうマニアックなタイプじゃないからっ。」

ユウコ「だからさー、ちょっと思ったけど言ってないじゃない。」

こうた「思ったんだっ…。」

ユウコ「冗談よっ。冗談っ!」

ユウコ「でも、いるんでしょ?なんかそういう人。」

こうた「うん。って言うか、まだよくわからないけど、彼女とかでもないけど、なんか気になるって言うか〜。」

ユウコ「やっぱり〜。」

こうた「えっ、俺そんな風に見える?」

ユウコ「直感よっ!」

こうた「でたー、得意の直感。」

ユウコ「あとは、こんなかわいい子近くにいるのに見向きもしないじゃないっ!」

こうた「自分で言っちゃう?」

ユウコ「まっ、クリスマスジョーク!」

こうた「初めて聞いたな。クリスマスジョークって。」

ユウコ「まっ、クリスマスって事で。」


駅近くのケーキ屋さんも今日は働いてる人もたくさん。

店内はケーキのいいにおいが。


ユウコ「えーっ、結構大きいの買うんだ。」

こうた「足りないよりはいいかと。」

ユウコ「私たちは3人だけど、1人で食べれるの〜?」

こうた「大丈夫、ケーキ好きだし。」

ユウコ「でもびっくり。まさかこうたくんも予約してたなんて。」

こうた「だって、近くにここしかないし。」

ユウコ「じゃっ、行きましょっ。」

こうた「楽しいクリスマスを!」

ユウコ「そっちもねっ!」

ユウコ「その、気になる人の事頑張って。」

こうた「頑張る事とくにないし。」

ユウコ「そーじゃなくて、きっとその人もこうたくんと同じ気持ちよっ!」

ユウコ「得意の直感!」

こうた「当たるといいなっ。直感。」

ユウコ「大丈夫!」

こうた「ありがとう。直感っ。」

ユウコ「じゃあ、メリークリスマス!」

こうた「メリークリスマス!じゃあ。」


ガチャ

ケーキをしまって、早めにシャワー。

小さなクリスマスツリーもロフトの上に飾ったりして。

生ハムのサラダも作ってみた。

ロフトの上のクリスマス。


アヤ『メリークリスマス!!』


こうた「おーっ、メリークリスマス!」


アヤ『ケーキありがとう!って出しちゃったからこっちで半分に切るねっ。』


こうた「生ハムのサラダはもう分けてあるからそのまま持ってって。」


アヤ『今からチキン入れるから、すぐ出してねっ!」


こうた「おーっ、熱々だしっ。」


アヤ『冷蔵庫で渡すには熱々だけどすぐ出したから問題なしっ!』


こうた「準備完了!」


アヤ『じゃあ。』


アヤ『メリークリスマス!』

こうた「メリークリスマス!」


アヤ『ケーキに生ハムのサラダもありがとうねー。』


こうた「チキンありがとう。」

パクッ

こうた「あっち〜、けどうまい!」


アヤ『サラダもおいしい!』

アヤ『なんか一緒にいるみたい!』


こうた「たしかに。見えないけど食べるものもちゃんとシェアできてるし。」


アヤ『ホントねっ、』


こうた「なんか、これはこれでいいかもしれないねっ。」


アヤ『お互い見えないけど、毎日話して、クリスマスにはケーキも半分にできるし。』


こうた「見えない分、今シェアできてる会話と冷蔵庫がすごく貴重に感じるし。」


アヤ『多分、世の中で私たちだけだと思うよ。この関係って。』


こうた「他にいたらびっくりだわ。」


アヤ『そうねっ。』

アヤ『じゃあ、そろそろケーキを。』


こうた「おっ、そーだな。」


アヤ『はいっ!あーんっ!』


こうた「だからさー、」


アヤ『冗談っ!やってみたくてっ。』


こうた「でも。口開けたらホントにケーキ届きそうって思うくらい、声はすぐそこに聞こえるよなー。」


アヤ『声はすぐそこに聞こえるけど、何か渡す時は冷蔵庫経由だし。』


こうた「来年俺ここに居たら1人クリスマスだなぁ。」


アヤ『あっ、そうね。私は来年のこの時期にはホワイトクリスマスだし。』


こうた「ホワイトクリスマスかぁ。」

こうた「俺もいつか。」


2人だけの特別なロフトのクリスマス。

最初で最後のロフトのクリスマス。

楽しい時間は早く過ぎていく。


こうた「あー、なんか寒い。」

ユウコ「ごめんねー、買い物付き合わせちゃってさっ。」


今年は今日で終わり。

街はこの前までのクリスマスの顔から、年末年始の雰囲気に変わっていた。


ユウコ「お掃除グッズと。あとはー、」

こうた「餅買わなきゃ。」

ユウコ「あっ、私もっ。」

こうた「結構買ったね。」

ユウコ「だってー、年末年始はあまり家から出たくないじゃない?」

ユウコ「あっ、明日初詣行く?」

こうた「いいねー。俺さ、神社場所知らないしちょうどいいや。」

ユウコ「じゃあ、明日朝ねっ。」

こうた「おうっ。」

ユウコ「じゃあ。良いお年を!」

こうた「良いお年を!」


ガチャ

さっさとシャワー浴びて、今日は蕎麦を茹でて年越し。


アヤ『こんばんは〜。』


こうた「おうっ!」


アヤ『あっ、…お蕎麦食べた〜?』


こうた「うん。食べたよ。」


アヤ『えーっと、‥あと30分。』


こうた「えっ?もうカウントダウン?」


アヤ『その、やり忘れチェック。』


こうた「やり忘れかー、言い忘れはあるかもしれない。」

こうた「今年もお世話になりました。」


アヤ『来年もよろしくお願いします!』


こうた「あーっ!俺のセリフー!」


アヤ『早いもの勝ちよっ!』


こうた「まっ。いいやっ。」


アヤ『3、2、1』


アヤ『あけましておめでとう!』

こうた「あけましておめでとう。」


アヤ『今年もよろしくっ!』

こうた「よろしくっ。」


新しい年のはじまり。

そして、このロフトの上の時間も終わりまでのカウントダウンがはじまる。


第9話に続く







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