第7話 忘れていた日

夕日が沈むと少し肌寒い帰り道。

乾いた空気も澄んだ空も夜になれば同じ世界が広がって。

そんな夕暮れのある帰り道。


ユウコ「もうすぐ忙しい時期ね。」

こうた「えっ?そうなの?」

ユウコ「仕事だけじゃなく、世間的に行事がいっぱいで。」

こうた「あっ、そういう事ね。まっ、俺にはあまり関係ないかな。」

ユウコ「え〜、なんか冷めてるー。」

こうた「いや、俺、恋人とかいないし。」

ユウコ「私もいないけど、クリスマスとかってなんか楽しくない?」

こうた「そーかなぁ?」

ユウコ「恋人いなくても、一人で過ごすとしても、楽しいじゃない。クリスマスって。」

こうた「そんなもんかねー。」

ユウコ「そんなもんだよっ。」

ユウコ「街には綺麗な飾りがたくさんあるしさー、大きなツリーとか。」

こうた「まぁ、普段とは違う感じだね。」

ユウコ「そう。その雰囲気や、クリスマス独特の世界観?みたいなのがステキよねー。」

こうた「じゃあ、今年は色々気にして見てみるかなぁ。」

ユウコ「そうよっ!楽しまなきゃっ。」

こうた「クリスマスすぎたら年末かー。」

ユウコ「それは、クリスマス終わったら考えればいいんじゃない?」

こうた「それもそっか。」

ユウコ「あっ、そういえばあれ出した?」

こうた「あー、次の転勤先の希望ね。北国なら四季はっきりしてるし、長く住んでもいいと思って、この前出したよ。」

ユウコ「なんか人少ないみたいだから、早ければ来春かもね。」

こうた「うん。でも、ここも住みやすいから結構気に入ってるけどね。」

ユウコ「でも、あなたはここには希望出してきたわけじゃないから、いずれは転勤でいなくなる人。」

こうた「そー言われたら、そーだけど。」

ユウコ「それにあなたはここじゃない。」

こうた「えっ?どういう意味?」

ユウコ「いや、あなたに合う場所?とか、まあ、そういう意味。」

こうた「俺、南国は似合わない?」

ユウコ「似合わない。色白だし。」

こうた「えっ、そういう理由?」

ユウコ「まっ、なんとなく。」

こうた「そういえば、北国の他にも人少ない地域あったのに、かなり北国推しだったもんねー。」

ユウコ「そー、色白だしっ。」

こうた「そういう理由?」

ユウコ「あと直感。」

こうた「かなり勧めてたけど、案外単純な理由で勧めてたんだー。」

ユウコ「直感って大事よー。」

こうた「そうかなぁ?まぁ、四季がはっきりしてるのが好きだし。雪とか楽しそうだからさー。」

ユウコ「行けたらいいね。」

こうた「うん。調べてくれてホントありがとうね。」

ユウコ「いいのっ。結構簡単に調べられるから楽なもんよ。」

こうた「そーなんだ。でもありがとう。」

ユウコ「じゃあ、希望叶って行けたらうちの支店にジンギスカン送って〜。」

こうた「ジンギスカン?」

ユウコ「こっちあまり売ってないし、みんな好きなの。ジンギスカン。」

こうた「覚えておくよ。」

ユウコ「じゃあ、お疲れ様〜。」

こうた「あっ、それじゃー。」


ガチャ

部屋に帰るとこの時期は少し寒い。

転勤も決まってないのに、具体的な話をしたせいか、もう引越し気分に。

今の部屋は結構気に入ってるので、次もロフトがいいな〜、なんて事も考えて。

シャワーを浴びていつもの時間。


アヤ『ヤッホー!』


こうた「あっ、今上行くわ。」


アヤ『今日はなんの日?』


こうた「…あっ!」


アヤ『ハッピーバースデー!』


こうた「おー!覚えてたのっ!?」


アヤ『じゃあまず冷蔵庫見て。』


こうた「あーっ!ケーキ!」


アヤ『ロウソクつけて〜。』


こうた「おっ、」


カチ カチ


こうた「つけました。」


アヤ『お誕生日おめでとうー!!!』

アヤ『じゃあ、けしていいよー。』


ふぅ〜ふぅ〜


アヤ『おめでとう〜!』


パンッ パンッ


こうた「クラッカー?」


アヤ『雰囲気、雰囲気。』

アヤ『じゃあケーキ半分に切って。半分は冷蔵庫に入れてっ!』


こうた「なーるほどっ!」


アヤ『ちょっと待っててっ!』


アヤ『お待たせー。』


こうた「いただきまーす!」


アヤ『飲み物もある?』


こうた「あっ、うん。」


アヤ『じゃっ、カンパーイ!』


こうた「カンパーイ!」

こうた「なんか不思議だけど、誕生会って感じで楽しいかも。」


不思議な関係にも慣れて、誕生日も一人ではないこの感じ。

悪い気はしない。

むしろうれしい。


アヤ『さっすが私っ!』


こうた「さすが。認めます。」

こうた「ありがとう。」


アヤ『一人だけど一人じゃない。』


こうた「そーだな〜。」


アヤ『クリスマスって予定は?』


こうた「ないよ。なんにも。」

こうた「もしや?」


アヤ『あー、バレた〜?どーお?こんな感じで一緒に。』


こうた「いいねー。楽しいかも。」


アヤ『なんか楽しみー。見えない分色々ワクワクするし。』


こうた「そーなんだよな。見えないけど、もはや他人とは思えない。」


アヤ『そーよね。さすがに明日とかに声聞こえなくなったら寂しいかも。』


こうた「そーだな。そうなるとクリスマスホントに一人になるし。」


アヤ『まっ、今のままなら大丈夫そう。』

アヤ『来春までは。』


こうた「来春?」


アヤ『来春地元に戻るの。あれっ?言ってなかったっけ?』


こうた「地元って北国?」


アヤ『そう。』


こうた「じゃあ俺も。」

こうた「俺、転勤になる時の希望出したんだよねー。」


アヤ『希望?』


こうた「うちの会社転勤多いけど、希望出してそこに行ければ、その先は余程の事ない限り転勤ないんだって。」


アヤ『でっ、どこに出したの?』


こうた「北国。」


アヤ『えーっ、そーなのー?』


こうた「うん。四季がはっきりしてるし、雪とかは楽しそうだから、長く住むなら。」


アヤ『そーなんだー!』


こうた「いつになるかはわからないけど。」

こうた「早ければ来春。長くここにいても2年先とかかな。」


アヤ『会えたらいいなぁ。』


こうた「まっ、そうだねっ。」


アヤ『その前に、クリスマス!』

アヤ『年末年始は?』


こうた「実家って東北だから遠いし、一人で年末年始かな。」


アヤ『じゃあ二人だっ!』

アヤ『私も帰らないの。どうせ来春地元に戻るから。』


こうた「まっ、二人っていうのか?」


アヤ『一人ってわけじゃないでしょ。』


こうた「まっ、そりゃそうだ。」

こうた「今日はありがとう。正直、自分でも忘れてたから、びっくりした。」


アヤ『次はクリスマスって事でっ!』


こうた「それは忘れないようにする。」


アヤ『忘れないでよー。』


こうた「毎日話してるし大丈夫だよ。」


アヤ『まっ、そうねっ。』


忘れてた誕生日。

不思議でほのぼのした誕生日。

この日から季節はめまぐるしく動いていく。


第8話に続く。




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