部で一番強いのは試合に出られない少女。そんな彼女が甲子園に部を導く。

 女子高校野球をしていれば間違いなく時代の寵児になれたであろう少女が、野球部の監督である主人公を慕って男子高校野球に身を投じるお話。
 それだけならラノベ的な設定なんだけれど、脇を固める設定がとにかく緻密ですさまじい。彼女と主人公の前に立ちはだかる社会的な壁は、もうちょっとこう「手心を加えてあげても……」というくらいにシステムの歪さや残酷さ、そして欠陥を抉りだしており、現ドラ作品読んでるなと痛感させられます。

 また、主人公達以外の登場してくるキャラクター達がすごく個性的。ぶっきらぼうな不良や少女に誘われて意図せず野球部に入部した秀才、彼女のファンを公言してはばからない後輩’sとエトセトラ。さらに見せ場もちゃんと用意してあるので、誰か一人はお気に入りが見つかるだろうこと間違いなし。この群像劇の巧さもほんと凄いと思います。(レビューで技巧的な所を褒めてもどうかとは思いますが)

 ストーリーも先に言った社会的な壁が巧く絡み合って一筋縄でいかない所は流石としか言いようがない。ともすると個人の努力・成長に比重を置いてスポーツモノは展開しますし、そういう側面もこの作品にはあるのですが、それと同列でどう自分たちの前に立ちはだかる純粋なスポーツ以外の問題を解決していくのかというのにスコープを当てて、それを三年という時間をかけてじっくり解決していくというのは、なかなか珍しい試みではないかなと感じます。

 もともと作者さんは社会性の高いテーマを作品に組み込む(そしてそれを女性が打破していく)のが巧い方なので、この辺りを小説に期待している方は読んで損はないです。
 クライマックス直前、今読むしかないって作品。おすすめです。

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