第5話「いま僕が、本気でやってる遊びの話」

 僕は、自分が書きたいと思うものを曲げることはしないけれども、自分が面白いと感じるものと、世間の人たちが面白いと思うものが乖離してる事は、ちゃんと自覚してる。


 だからまず自由に書いてから、マニアックだなと思う内容をどんどん削っていく。表現が難しい部分には平易な言葉を使ったり、内容的には問題なくても、読んでいて気持ちよく読めない時には(これは、詩の範囲に近いと思う)思い切って捨てることにしている。


 それで作品がイマイチになっちゃうかって言ったら、そんな事は全然なくて、大抵は削った後の方が面白い。三千字のお話がアップされてたとしたら、元々は五千字くらい書いてたと思ってくれれば、大体現実に近い。


 今の僕は作家ではないけど、お金を貰って文章を書く人、つまり、売文業者ではある。今の僕には、僕の文章を金払っても読みたいという人がファンボックス上に百人くらい居て、彼らの支援で毎月十三万円くらいのお金が入る(実際は、手数料を一割引かれて十二万弱)。


 支援プランは、月百十一円から一万円まで幅広いけど、平均すると一人当たり千三百円ほど頂いている計算になる。ちなみに一番下が十一人、一番上が二人だ。僕の文章に、月に一万円も払ってくれる人が二人もいるというのが、今の僕にとって、物凄い励みになってる。


 勿論、売っている文章は、怪しい情報商材とかではない。カクヨムで連載している、「闇人妻の杜―並行世界のユキとソラ―」(現在公開停止中)と同じ世界観で、まったく別のストーリーのお話をFANBOX上で連載している。あと、自分的には面白いと思うんだけど、いきなり衆目に晒すにはちょっとリスクある作品を、オリジナルの形で読んで貰うとか。


 頂いたお金に見合う以上のサービスを提供しなきゃいけないと思ってるからこそ、無償公開してるカクヨム版も含めて、いつもそういうスタンスで作品を書いてる訳だ。


 月に十二万円は、それで暮らしていける金額だとは到底言えない。だけど、『自分の好きなものを書いて』、毎月この金額が入るというのは、とてもありがたいことだ。書籍化を目指すなら、賞に出した方が良いと思うんだけど、はした金貰って作品は自由に使えなくなる訳で、あんまり賢い選択じゃないと僕は思ってる。しかも、賞に引っかからなきゃ、報酬はゼロだ。


 だったら作品をどんどん書いて、物書きとしての支援してくれる人を二百人とか三百人に増やして、「まずは文章書いてりゃ暮らせる」っていう状況に持ってった方が良い。そもそも芸事っていうのは、パトロンがいなきゃ成り立たないものなのだ。


 それくらいの人数なら、相手の顔がちゃんと見える。それに、二万部ラノベを売って印税を貰うのと、二百人から毎月千円もらうのだったら、手取り的には後ろの方が全然多い。そもそも、二万部を完売するのだって、今のご時世じゃ結構ハードルが高いのだ。


 人は関心のないモノには、絶対に金を出さない。だから、二百人から毎月千円(年間一万二千円)集められる作家だったら、その時点である程度、作品の質は保証されてる。もし僕が編集者だったら、そういう作家が目に留まったら、絶対に放ってはおかないだろう。


 そういう方法論で、僕はいま作家を目指してる。

 勿論、そこがゴールではないけれども。


 まあ賞を取れば、ファンの人たちが喜んでくれるし、新規の支援者も来るだろうから、賞レースを否定する訳じゃない。だけど僕は、賞を取るための作品は、多分これからも書かないだろう。


 大事なのは、僕が書きたいと思う作品をなるべく分かりやすく書いて、支援してくれる人を楽しませること。一言で言えば、彼らに「損したなあ……」と、思わせないことだ。


 僕はかつてエロゲーのシナリオを書いたり、お金を貰ってコラムを書いたりしたことはあるけれども、所詮はゴーストライターだ。それを僕の文章だと認識してる人は、ゼロに近い。ずっと相場で食ってたけど、相場師としては、現在休業中である。でもそんな僕を、株の情報も入らないのに、身銭を切って応援してくれるファンが百人以上いる。僕はそのことに希望を見いだしているのだ。


 僕は今、日本の戦後政治史というマイナージャンルで、『片隅に生きる人々』という作品を書いている。僕と同じように、既存の商業ルートじゃ絶対にペイしないけれど、すごく面白い題材を持ってて、作品を書きたいと思ってる人たちは沢山いるはずだ。


 そういう人たちが筆を折らなくて済む世界を作るために、僕はこんな試みをしている。作家としては未経験に等しい僕が、自分とファンのためだけの物語を書いて食っていけるなら、僕より若くて本気で作家を目指してる人なら、余裕で食えるはずだからだ。多数の人間に受ける事と、少数の人を滅茶苦茶に痺れさせる事にはトレードオフの関係があって、僕は後者のタイプの作家に筆を折らせたくないのである。


 もしかしたら、今このエッセイを読んでいる人の中には、「自分の書いてる分野は人気ジャンルだから、紙の本を出せば食っていける」と思ってる人がいるかもしれない。でも、それは幻想だ。


 仮に貴方が、年間二万部売れる才能を持っていて、そのレベルの作品を年間二冊出せるとしても、そこで入ってくる印税は、良くて二百万円くらいだ。勿論、ここから税金が引かれる。そして、それを何年も続けられる作家は、そうはいない。もし今のラノベの実売を調べたら、きっとドン引きするだろう。ネタと才能が枯渇するまでの間に何らかの大ヒットを飛ばさない限り、今の日本じゃ、物語を書いて食ってはいけないのだ。


 ごく一部の天才を覗いて、作家がファンと直接向かい合ってお金を頂く世界になっていくのは、これはもう仕方のないことだ。だから僕は、そんなにおかしな事を言ってる積りはないのだけれど、世間がどう判断するかは、勿論分からない。


 うまくいかないことを長々と続けても仕方ないから、この企画を思い付いた時に、『作家を目指す活動は、長くても一年』と期限を切った。もう二月半たったから、残りはあと九ヵ月半。


 実をいうと、僕はまだ支援して頂いたお金に一円も手を付けてない。実際に金を集めた『実績』を作ることが目的であって、使うことが目的じゃないからだ。


 勿論、今一番頑張ってるのは僕だ。だから、なんらかの結果が出れば、いくらか使わせてもらう積りでいるけれども、それを独り占めするつもりは最初からない。これから約九ヵ月半後に、作家活動を続けるにせよ、止めるにせよ、余ったお金は全部、僕の作家活動を支援してくれた人たちに、ばらまくつもりでいる。


 その時に、「一年間、楽しませてもらったのに、金が増えて戻って来たわー」って、支援してくれた人たちに笑ってもらえたらいいなあって思いながら、僕は毎日作品を書いてる。僕が今やってるのは、そういう遊びだ。

 

 でも遊びだからこそ、本気でやらなきゃ楽しくないし、もし仕事にしちゃったら、僕は作家を商品にしか見られなくなるだろう。どんな価値観を持つ人間でも僕は絶対に否定しないし、支援者として受け入れるけど、理念だけは共通じゃないと、一緒には遊べない。


 だから、僕が身内に対してどんなものを書いてるのか気になるとか、「二万部は売れないけど、二百人の心は強烈に掴めるタイプの作家」を応援したいという方が居たら、ぜひ支援してみて欲しいと思う。僕を支援することは、ボランティア同然の金額でマイナージャンルを書いてる人たちを救うことにも、きっと繋がるからだ。

 

 僕の今日の言葉に何か引っかかるものがあったなら、まずは伊集院アケミのTwitterをフォローして、気軽に声をかけて見て欲しい。僕はお世辞は言わないけど、真面目に声を掛けてくれた人には、必ず返事を返すようにしている。


 一万五千人フォロワーがいた時にも、VALUで天辺てっぺんを取った時にも、僕はちゃんとそうしてきた。一旦それをリセットしたのは、相場師としての僕だけを評価する人間、つまりお金が一番に来る人たちは、僕のこれからの人生にはいらないなと思ったからだ。

 

 勿論、お金儲けは悪い事じゃない。だけど、金が一番に来る人たちは、後から良い条件を示した人の方に簡単に寝返る。だから金じゃなくて、最初から【理念】で繋がらなきゃダメなのだ。「いい事をした結果として、金が残る」んじゃなければ、そもそもやる意味がない。


 僕は相場の世界で、昨日までの貧乏人が一気に成り上がったり、成功者がたった一つの失敗で自殺に追い込まれたりする様を何度も見てきた。だから、下の人間を舐めないし、上の人間にも媚びない。そして、誠実な人間に対しては、こちらもなるべく誠実でありたいと思ってる。


 世の中色んな人間がいるし、趣味嗜好はそれ以上に沢山ある。だから、作品の合う合わないは仕方ない。だけど、僕は今、絶対に自分にしか書けない作品を書いている自信があるし、そういう人間は他にも沢山いるはずだ。そういう人間が、なるべく楽しく暮らしていける世界を作りたいと、本気で思ってる。


 僕には表垢である伊集院アケミの他に、『DJ全力』という鍵アカウントがあって、僕の支援者のほとんどはそのアカウントにいる。そこに居る人たちは皆、僕の作品だけでなく、僕の【生きざま】を楽しんでくれている人たちばかりだ。


 その垢にかつて一万五千人いたフォロワーを、僕は百六十人まで厳選した。そいつらと絡むだけでも、結構楽しいんじゃないかと思う。仲間に入るのは、僕らと理念を共有すること。つまり、「二万部は売れないけど、二百人の心は強烈に掴めるタイプの作家」を応援したいという考えに賛同して、僕を支援をすることだけだ。金額はいくらでも構わない。


 だから、まずは伊集院垢から始めて、いつかDJ垢むこうで、皆と「本音」で話せる日が来ればいいと思ってる。今日のところはとりあえずそんな感じ。


 じゃあ、またね!


*このエッセイは二年以上前に書いたものです。『DJ全力』アカウントへの招待は現在は行っておりません。またFANBOXは、諸事情により閉鎖となりました。近況を知りたい方は、https://twitter.com/valuer5460 までお願いします。

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闇人妻の杜のアケミさん(伊集院アケミ・エッセイ集) 伊集院アケミ @arielatom

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