第10話『お風呂場にて』
ここは俺の家の風呂場の更衣室だ。
俺は、シズの護衛のため更衣室で待機している。
安全面も考えて交代で風呂に入ることにしたのだ。
つまり、俺が風呂に入る時はシズが代わりに、
更衣室で俺を待つという感じだ。
「すまんな、俺が監視してるみたいでくつろげないだろ?」
「大丈夫。むしろ、クロが近くに居てくれる方が安心できるわ」
「そうか」
「――なんだったらっ、そのっ、クロも……わたしと一緒に、お風呂入るっ? そっ、そのほうがクロも、護衛しやすいんじゃないかしらっ?」
「いや、さすがに……まずいだろ。いろいろと。俺も一応、男だからな」
「へぇ~。でも、クロはわたしの裸、よーく見慣れているんじゃないかしらぁ?」
思い当たるフシが多すぎて頭が痛い。
太ももの凝視、パソコンの中の秘蔵ファイル、
思い当たるフシが多すぎて反論できない。
(でも不思議なのは、あの時にパソコンのなかの写真を消そうとしたら、慌てて止められたことなんだよなぁ……やはり、のちのち俺を警察に突き出す時の証拠物件を消されたら困るということだろうか。女心はわからない)
「いや……まぁ、それを言われると俺も返す言葉がないのだが、
「ふふっ、冗談よっ。クロの反応が面白いからからかっただけ。ごめんなさいね」
「いや、気にしないでいい」
そして頼むからパソコンの件は通報しないでくれ。
「はぁー。落ち着くわ。やっぱり、あったかいお風呂っていいわよねぇ」
「そうだな。俺は、シャワー派だけど」
「えー。もったいない、どうして?」
「なんか風呂に入っている時間がもったいない気がしてな」
「へー。いかにもせっかちな男の子っぽい考え方ね」
まぁ、その風呂に入る時間を節約したところで、
節約した時間を有効に使うかといったらそうでもなく、
あつ森とかやってるだけなんだけどな。
「あっ……クロ、ごめん。このシャンプースースーするというか、染みるというか、チクチクして頭が痛いわね。ちょっとだけ、目にはいっちゃったわ」
「それ、親父の使っている発毛シャンプーだ。目についたのはシャワーを弱めにして洗い流してくれ。俺とオフクロが使ってる白いボトルのシャンプーはなかったか?」
「うーん。一通り探してみたけど、ないみたい~」
「そっか。ちょっと、待ってて。いま新しいシャンプー渡すから」
「ありがとー」
「それじゃ、渡すぞ。風呂のドアをちょっとだけ開けてもいいか?」
「はぁーいっ!」
俺は、風呂場のすりガラスを、
ちょうど腕の入る分まで開け、
シズに新しいシャンプーを手渡しする。
なんでだか分からないが、シャンプーを渡す時に、
俺の手の指先がシズの指先に軽く触れただけなのだが、
すごいドキッとしてしまった。
「うん。これなら大丈夫、ありがとうね。クロ」
「お、おう……ふひっ」
すりガラス越しでもシルエットで分かるほど大きい。
いやぁすごいな。あの中には何が詰まっているのだろうか?
きっと、中には夢や勇気や希望がつまっているのだろう。
――否、そうに違いない。
「でも、クロのお父さんってハードボイルド系のイケオジって感じだったわよ。髪もふさふさだったし、発毛シャンプーなんて必要ないように思ったのだけど?」
「それが最近、仕事のストレスのせいか朝起きると枕に髪が着いているそうだ。そういや、親父は予防のために発毛シャンプーを使っていると言ってたな」
「はぁ……、あのハードボイルド系のパパをそこまで追い詰める会社っていうのも凄いわね。わたし社会に出るの怖くなっちゃった。ねぇ、クロ~わたしを養ってーっ!」
「おっ? ……おうっ! もっ、もちろんだ、俺に任せておけ」
「……ばっ、ばか! 真面目に答えないでよっ! その……照れるじゃない」
「すっ、すまん」
「でも……っ」
「とっても嬉しいわ。ありがとうね、クロ」
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