第4話『幼馴染と大きいおっぱい』
あの後、本来の入院期間を大幅に短縮して退院した。
外科医いわく、これだけ早く退院したのは俺が初めてらしい。
早く退院しないとシズを守る事ができないからだ。
リハビリもマッハでこなし、
体も問題なく動かせるアピールをし、
医師に退院を認めさせたのだ。
胸のあたりに多少は痛みを感じるが、
痛みに耐える特訓は忍にとっては必須スキルなので、
我慢していれば耐えられる範囲の痛みだ。
拷問をされても主の情報を漏らさないよう、
痛みに耐える能力が必要なのだ。
まぁ、そんなこんなで、退院して初登校日である。
「おはよう。クロ」
「おはよう。シズが俺の家に迎えにくるとは珍しいな?」
「退院あけだから大変だと思って」
「無理しなくていいぞ。俺が迎えに行くから、玄関で待っていてくれ」
実はシズが俺の家に迎えにくることは事前に知っていた。
というのも俺はシズが起きるよりも早く起き、
家の近くで待っていたからだ。
いつもどおり、シズに声をかけようと思ったのだが、
学校とは真逆、俺の家の方に歩いていたので、
気配を消しながら後ろを付けていたのだ。
「シズの気持ちはマジで嬉しい。だけど、学園のアイドルにそこまでさせたら、クラスの連中に何言われるか分からない。そこまでしてもらわなくて大丈夫だ」
クラスメートたちは俺がシズのカバン持ちだと思っているようで、
シズと一緒に登校しているのを見られているのに恋人認定はされていない。
気楽な立場ではあるが若干、ぐぬぬ……と思わないでもない。
「やめてよ、もう。このママと同じ金色の髪や、緑色の瞳のせいで学校では悪目立ちして大変なんだからぁ。髪、黒く染めちゃおうかしら?」
そういいながら自分の髪をいじっている。
(ぶっちゃけ目立っているのは、金髪でも緑色の目でもなく、おっぱいが原因だけどな。俺のクラスの男達はシズの話題になるといつもおっぱいばかりだ。愚かなり)
「どうしたの? クロ、黙りこんじゃって?」
「んっ? 登校のルートを考えていたんだ。どこを通ればより安全に学校にたどり着けるか。今日は、駄菓子屋の近くを通るDルートを通ろうか」
Dルート
どの経路が一番安全かは毎日確認し決めてはいる。
ボディーガード役として最低限必要な事だからである。
「やだっ……クロ、かっこいい」
フッ。甘いな。俺に聞こえないように、
小さな声でつぶやいたつもりだろうが、
俺には聞こえているぞ。
何しろ俺は忍の末裔だからな。
「ところでさっきの話だけど、あんまり気にしなくていいんじゃないか? 俺はシズの金色の髪も、緑色の瞳も好きだぞ」
――そして大きいおっぱいもな。
「ちょっ……どうしたのよ、クロ」
「俺としはシズには黒く染めずにそのままでいて欲しいと思うけど」
「そう……? クロが言うなら、そうしようかな?」
「ああ、俺はそうしてくれると嬉しい」
「……ありがとう。うん、ちょっとコンプレックがあったのだけど、クラスメートたちがどう思おうとクロが私の髪を好きって言ってくれるのなら、それで良いわ」
「ふひっ……気にするな」
「そうそう……今日は私がクロのお弁当を作ってきた……」
シズの頭上の直線状に銀色の光。
電柱の上で作業をしている作業員の手から
モンキーレンチが滑り落ちたのだ。
「危ないっ!」
シズに
落下物の盾になり守る。
俺の頭に鈍い衝撃が走る。
「クロ……っ?! いきなり……どうしたの? って、……いいえ……そんなことはどうでも良いわ。それより、頭から血が出ているわ……いったい、どうしたの?」
「ああ、これか。シズの頭上に工具が落ちてきていたから、とっさに、な」
「……ごめん。少し前に命を救ってもらったばかりなのに、またクロに……」
「気にすんな。シズは悪くない。悪いのは、おっちょこちょいな作業員だ」
実際は"おっちょこちょい"のレベルを超えていたのだが……。
あのままシズの頭上に落ちていたら怪我ではすまなかっただろう。
顔にでも傷が付いたら、シズにとってトラウマものだろう。
だから無駄にビビらせる必要もあるまい。
「泣くな。"犬も歩けば棒に当たる"ってコトワザもある。よくあることだ」
コトワザの使い方が当たっているかは、
しらないがこういうときは勢いだ。
それにしても、シズが危機にあう頻度は異常だとは思う。
不思議といえば不思議だ。
シズの近くに居ると、こういう事が頻繁に起こる。
(まっ、そういう事もあるだろう。忍者の末裔なんて珍妙な存在もいるくらいだ)
考えても答えが出ないことなので、
そこで考えるのはやめた。
(スパナを落とした作業員の顔は覚えた。素性はあとで確認させてもらうか。まぁ……怨恨の線は薄そうだが、念には念をだ)
「俺は大丈夫だ。泣くな。ほら、俺のハンカチ使いな」
「もう……ハンカチが必要なのはクロの方でしょ。血流れているし」
「はは。それは、一理あるな」
そんなこんなで登校復帰一日目の
午前中は保健室で過ごすことになった。
シズは隣でずっと俺のことを心配そうに、
俺に付き添ってくれるのだった。
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