第7話『幼馴染とハンバーガーを食べにいこう』
ここは世界でも最大級のハンバーガーチェーン店、
マッグの池袋店。関西の方だと、マグドと言うらしい。
「シズは、あんまりこういうジャンクな店行かないだろ?」
「そうね。でも、興味はあったの。なかなか独りで入る勇気がなくって」
「シズの場合は見知らぬ男から声をかけられたり、大変だろうからな」
「そうなのよ。さっきも、クロに助けられちゃったわね。ありがとう」
「シズにナンパしてきたゴロツキ連中のことか」
「うん」
まぁ、ナンパというよりも俺には女を連れ去って、
酷いことをする、クズどもにしか思えなかったが。
「釘バット持ってたし、物騒な連中だったな。俺も相手が暴力を振るってこなければ、穏便に済ませるつもりだったんだけどさ。とりあえず当て身で眠ってもらった」
実際は当て身に見せかけて手のひらに隠し持った、
麻酔針の暗器を首元に突き刺して眠らせたわけだが。
ぱっと見は首トンで、眠ったように見えたと思う。
本気で当身をすると頚椎に後遺症を残す可能性があるから、
麻酔針を使ったのはむしろ俺なりの配慮だ。
「クロがいなければ危なかった。普段忘れがちだけど、とっても強いのね」
「一応、忍の末裔だからな。ゴロツキに負けてたら俺の代までは続いてないな」
「池袋って怖いところね。池袋が舞台の小説に書いてあった通りの怖い街だったわ」
「いや、案外普通の街だよ。少なくとも俺は一度も絡まれた事はないし、話しかけられたことすらない。やっぱシズってほら、かわいくて目立つからな」
それにおっぱいもでかくて目立つしな。
「かわいい……って、もう。からかわないでよ。まぁ、金髪と緑色の目は、日本じゃ珍しいもんね」
「俺もシズみたいに一度で良いからナンパとかされてみたい人生だった」
「クロは、一生わたしを守るって約束したでしょ。だから、浮気はだーめ」
「心配御無用。俺はそんなにモテないからな」
「はぁ。クロの良さが分からないなんて、見る目がない子が多いのね」
「そういってくれるのはシズだけだ……持つべきものは幼馴染だな。うるうる」
「ふふっ、でしょ? もっとわたしを敬ってくれてもいいんだからぁ」
なんとなく照れくさい展開だ。
話を切り替えよう。
「……そんなことより、そろっとマッグ食おうぜ。冷めたらまずいぞ? ほら、このフライドポテトにケチャップつけて食べると旨いから食べてみてよ」
俺は、シズの口にケチャップを付けた、
フライドポテトを放り込む。
「っ! これ、本当に美味しい……ケチャップをつけただけなのに不思議」
「だろ? 注文時に店員さんにお願いしないと貰えないから実質、マッグの隠しメニューみたいなもんだぜ」
「おいしい。今度、クロのお弁当におかずとして入れてあげる」
「ありがたいけど、無理すんな。弁当作るのは朝早いし大変だろ?」
「わたしがやりたくてやっていることだから、クロは心配しなくてもいーの。そのかわり、今日みたいにデートに連れていってね?」
「デっ……デート。おお、もちろん。デートねぇ、デートかぁ」
「うん。デート」
「っと……っところで、その新作バーガーどう? カニフィレオだったっけ?」
「クリーミーで美味しいわ。クロも食べてみる?」
「うまっ。カニの身は入ってないけど。間違いなくカニ! うまい」
「ねっ? カニ入って無いのに、カニの味がするのは不思議よね」
「だな。これが科学の力だ」
「クロのも食べても、いい?」
「良いけど、俺の食ってるスパイシー・ハバネロ・ホット・バーガー、辛いぞ?」
「ふふっ、大丈夫。心配性ね……って、これ、すっごぃ辛いじゃない、もう」
「ははっ。だから言っただろ?」
「舌がいたぁい……。バニラシェイク飲んでいい?」
「どうぞ」
俺は自分の飲みかけのバニラシェイクを渡す。
シズはストローを変えずに直のみしていた。
「油断していたわ……」
「ははっ。シズの慌てた顔みれただけでも、マッグ来たかいあったわ」
「二人でたまに、こうやって外の街でデートするのも楽しいわね」
「そうだな。今度は、どこに行きたい?」
「そうね。タピオカ専門店に行ってみたいわ」
「すまん……シズ。それは無理だ。残念だが、その約束は守れない」
「どうしてよ?」
「いやね。もう、都内でやっているタピオカ専門店、ないんだよ」
「あっ……そういう。わたしの方が、その、調子乗ってすみませんでした」
「うん、そうなんだ。光陰矢のごとしで、諸行無常だよ、
そんなこんなのとりとめのない雑談のあとに、
池袋の街を散歩して二人で家路に着くのであった。
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