第6話『右後方席の幼馴染の太もも』
昼食後に保健室を出て教室に入る。
頭に包帯を巻いているし退院開けの、
久しぶりの登校なのだが俺に声をかけるものはいない。
(よく考えたら、陰キャ仲間の杉山と、石崎は俺に心配そうに声をかけてくれたか。あいつらめっちゃ良いやつだな、泣けてくるぜ。一度も遊んだことないけどな)
サンキュー、杉山、石崎。
まぁ……その話はともかくとして、
俺の席は窓際の後方席だ。
そして、俺の右後方の席にシズが座っている。
授業中、特にやることがない時には俺は、
机に顔を伏し、寝たふりをしながら、
右後方の席に座る幼馴染の太ももをながめている。
学校の授業中唯一の楽しみの時間だ。
太ももを眺める時のコツは、
両手を机の若干手前の辺りで腕を組んだ状態で、
その上に隙間を作らず、顔をしっかりと乗せる。
すると必然的に視界が右後方に向かう、
そう、そしてそこにあるのは――
寝ているフリをする時のコツは
机と腹部の間隔を20センチほど確保することだ。
欲をかいてあまり間隔を開けすぎると不自然だし、
20センチより狭くすると見えづらい。
これは人類史に残る画期的な発明だと思う。
ゆくゆくは特許を出願して一山当てたいと思っている。
(あぁ……この曲線、美しい、まるで俺の汚れた心が浄化されていくようだ)
なんだろう見ているだけで癒やされる。
決していやらしい気持ちで見ているわけではない。
むしろ美術品や芸術作品を見るように、
敬意をもって真剣に見つめている。
太ももを脳内で完全に3Dで描けるくらいには、
俺は完全に幼馴染の太ももを把握している。
(おっ、足を組みかえた……この角度は……なるほど、そういうことか、リリン)
幼馴染の太ももを眺めながら俺は考える。
シズには黒ニーソックスと白ニーソックスどちらが似合うか、と。
欲張りセットで、白と黒の横ストライプも捨てがたい。
(生足も確かに良いが、逆に身にまとうことによってます魅力というものもある。シズはそのかけがえのないものを教えてくれた。私は、その確認をするために学校に来ている。全ては心の中だ、今はそれでいい)
ふわぁ……それにしても授業は退屈。
英語とか俺、今後使うことあるのか?
(シズはきっと名門の大学に進学するのだろうなぁ)
可能であればシズと同じ大学に進学したいが、
現実では100%不可能だ。
推薦は内申書終わっているから無理、
俺が頑張ったところで成績優秀なシズと、
同じ大学に入るのは現実的には難しい。
大学には用務員の仕事とかあるのだろうか。
近くにいないと護衛も出来ないから、
何か方法を考えないとな。
(……ん。シズからLIMEきているな。なんだ?)
シズからのLIMEをには、
『先生に当てられたら、冠詞が抜けていますって回答してね』
と書かれていた。
気がついたら俺の前の席の女生徒が、
立ちながらなんか答えている。
次は俺の番ってことか。
サンキュー、シズ。助かったぜ。
「それでは、影山くん。テキスト51ページの問2の例文の問題点を指摘しなさい」
先生に当てられたので俺は席を立つ。
「影山くん、なんだその前かがみの姿勢は? ふざけとるのか。片手をポケットに突っ込んみながら、テキストを持つやつがおるか」
そう言われても俺のアレが大変な事になっているのだ。
そりゃ、片手をポケットに突っ込んで前屈みにもなる。
クルマは急には止まれないのだ。
クラスの男どもは俺の前傾姿勢の理由を察しているようだが、
女子生徒は俺の格好を
先生も俺にいま、まさに起こっているクライシスを理解しながら、
あえて質問しているな? ちくしょー。
「あはは……すみません。ちょっと病みあがりなもんで」
「ふんっ、よろしい。では、影山くん答えなさい」
「えーっと、冠詞が抜けています。あっていますかね?」
「よろしい、正解だ。それにしても影山くんが英語の問題を答えられるとは珍しい。頭を打って逆に頭がよくなったのじゃないかね。がっはっは」
「ははっ、そっすね。いい感じで頭の回線が繋がったみたいです」
クラスメートの反応は特にない。
くすくすと笑っているのはシズくらいのものだ。
まぁいいさ、知ったこっちゃない。
ちなみに実は、俺をイジったこの先生は嫌いじゃない。
他の科目の先生はマジで俺を空気としてしか扱ってくれないからな。
俺としては特に意図してクラスで忍んでいるわけではないのだがな。
(おっと、シズにお礼を伝えないと)
俺はLIMEで"ありがとう"のスタンプを送る。
無課金でも使えるクマのスタンプだ。
クマが動くスタンプでかわいいと思うのだが、
たまには気の利いたスタンプをシズに送りたいものだ。
スタンプに課金すべきだろうか。
送った瞬間にすぐに既読マークがついた。
シズからは、最近流行りの100万回生きたワニの
キャラが動く『いいね』と書かれたスタンプが送られてきた。
俺のスマホの画面上で、
ワニとネコが笑顔でサクラの花びらをまいている。
かわいいやつだ。
俺は英語の教科書を立てながら、
シズにLIMEで『放課後空いている?』と書いて送ると、
秒も経たないうちに『OK』のスタンプが返ってきた。
シズのおかげで昼飯代も浮いたことだし、
放課後は弁当のお礼にマックでご馳走するか。
そんなことを考え小さなアクビをする。
ぼんやりとした意識の中で、窓の外に視線を移す。
窓の外の景色を眺めながら授業が終わるのを待つのであった。
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