第16話『動き出した不穏な影』
俺のスマホに着信があり名前を見ると親父だ。
親父から電話をよこすのは何かあったという事だ。
俺は急いでスマホを耳にあてる。
「親父、どうした?」
「鴉、おまえは静歌さんと一緒だな?」
「ああ……ずっと一緒だ」
「そうか。おまえと静歌さんは家に戻らずに身を隠しているんだ」
「どういうことだ?」
「こっちの方は危険だ。周囲が局所的な停電状態で、復旧の目処もわからない」
この日本で停電が起こることはほとんどないはず。
瞬停ならまだしも、復旧の目処もつかないほどの停電……。
「停電? 発電所を破壊したのか。相手は大規模な組織なのか?」
「違うはずだ。発電所の破壊は確認されていない。おそらくこの周囲の電線を物理的に断線させただけだろう。もし巨大な組織なら数の力で攻めてくるはずだ」
「親父には敵の目星はついているのか?」
「まぁな。直接手を下さず、外堀を埋める周りくどい手口。おそらくは、同業」
「……甲賀の忍の末裔?」
「ああ、おそらくは、なっ。この時代に伊賀と甲賀の争いなんてのは、時代錯誤もはなはだしいが、まぁっ、……可能性は非常に高い」
「しつこい野郎どもだ」
「そうだな。まっ、ヤツらの狙いは五条院家の血脈を潰えさせることであって、廃れた伊賀を潰すことは目的にはないだろうが。因果なものだ」
「千年近く前の争いをいまだに引きずってるとはね」
「ボクもまさか自分の代で対峙することになるとは思っていなかった。基本的には相互不可侵が暗黙のルールだったはずだが」
「いままでは干渉してこなかったのか?」
「ああ。少なくともボクの代も祖父の代も争った記録はない。なぜ、いまになって強硬手段を取ろうとしているのか……。ヤツらを締め上げて聞き出すしかない。場合によっては法を破る覚悟も必要だ」
「――それはつまり、生死は問わないということだな?」
「そうだ。ヤツラもプロだ。手加減してなんとかなる相手ではない。ボクはおまえには五条院を守る場合に限りの心得を教えたはずだが」
「忍の心得のことだな」
「そうだね。必要な時には
「親父に言われるまでもない。覚悟はできている」
「ははっ、お前は忍として一人前になる前から、静歌さんを守ろうとするその覚悟だけは本物だったからな。その点は信じている。自分の命に代えてでも、守れ」
「言われるまでもない。親父は、襲撃に対処できるのか?」
「ボクのほうは大丈夫だ、五条院家には非常用発電装置と俺が手掛けた対侵入者用の殺傷トラップが何重にも仕掛けられている。
「そうか、わかった。シズの両親は親父に任せる」
「こっちは心配するな。それとおまえの電子口座にある程度入金しておいた。確認できるか?」
スマホのディスプレイに500万円と書かれている。
「口座の残高は確認できた。当面の逃走資金としては十分だ」
「その金で静歌さんとしばらくのあいだ身を隠せ。そこにある金は使い切っても構わない。必要なものはその金で調達するんだ。いいね」
「わかった」
「それじゃ切る。絶対に、守りきれ」
そう言うと親父は電話をプツリと切った。
敵は少人数とは言え、
甲賀は直接戦闘においては伊賀に劣るが、
直接戦闘に持ち込めば負ける気はしないが。
「クロ、ずいぶんと真面目なトーンだったけど誰からの電話?」
「親父からの電話だ。シズ……落ち着いて聞いてくれ。俺たちは家に戻れない。しばらくは都内で身をひそめる必要がある。不自由をさせるが我慢してくれ」
「……どういうことかしら?」
「くわしいことは安全な場所でゆっくりと話させてくれ。いまはできるだけ人通りの多い街を立ち止まらずに歩いた方が良い。それで問題ないか?」
「うん。わかった。わたしはクロが一緒ならどこでも大丈夫よ」
「すまない」
「謝らないで。お父さんからの電話ということは五条院絡みのことでしょ。むしろクロにもクロのお父さんにも迷惑をかけているのはこっちの方。いつもありがとう」
「気にするな。俺はもちろん、親父も常に覚悟はできている。シズの優しい気遣いは嬉しいがこの話は終わりだ。いいな?」
「わかった。ところで、身を隠すと言ってもどこに向かうの?」
「新宿だ」
「新宿。なんとなく治安があんまりよくなさそうなイメージだけど……」
「署員数は970名、警視庁警察署のなかでは日本一だ。そして、日本で一番監視カメラが多い街でもあ」
「それだけおまわりさんが居るのは心強いわね。それにあれだけ人通りの多い街で派手なことをしたらすぐに捕まっちゃうものね」
警察官がイレギュラーには対処できないとしても、
抑止力としては十分に頼りになる存在だ。
「そうだな。眠らぬ街、夜も人通りの多い街だ。敵も表立って目立った行動が取れない。俺たちがしばらく身を隠すなら一番だ」
「そうね」
「それじゃ、善は急げだ。これから新宿へ向かうぞ、シズ」
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