第2話『見知らぬ天井?』

 ……いったい、ここはどこだ?


 視界がぼやけて焦点があわない。

 分かるのは自分が白い部屋で横になっているという事。


(白い部屋……噂の転生部屋というやつか?)


 目の前におぼろげに見える女性の姿。

 金色のストレートヘアーのおっぱいの大きい女の子。


 ……俺の知る限り思い当たる相手は一人だけだ。

 せっかくだから、ちょっとだけ小芝居打つか。


「俺は死んだはず、さては……ここは異世界?」


「ここは区の病院よ。本当に危ないところだったんだからっ!」


「ははっ、知ってる。冗談だ」



 あっぶねぇ。


 シズの特徴的な金髪とおっぱいが視界に入らなければ、

 うっかり独り言で『オープン・ステータス・ウィンドウ』

 とかつぶやいてしまうところだったぜ。


 さすがに、幼馴染の前でそれは恥ずかしすぎる。


 視界がぼやけいるとはいえ親の顔よりも見慣れた、

 幼馴染の顔を見間違えるはずがなかった。


 笑うだけで胸の傷跡が痛むが、

 この痛みは生きている証拠だ。

 

 それにしてもまさか胸のあの位置に

 刺されて死なないとは俺も運が良い。


 まぁ……本当に運が良い奴は、

 包丁で刺されたりしないのだろうが。



「もう……っ! 本当、心配したんだから」


「すまん。随分と心配かけたみたいだな」


「でもね。冗談が言えるくらいの余裕はあるみたいで少しだけ安心したわ」



 シズの目は泣きはらしたあとで真っ赤になっていた。

 寝ずの看病をしてくれたのだろうかクマも出来ている。


 普段は絹のようにつややかな金色の髪も、

 手入れをしていないせいか、今はボサボサだ。


 俺のために泣いてくれて申し訳ないという気持ちと同時に、

 嬉しいと言うか、どこかむず痒さを感じるものだ。

 女の子に泣いてもらえるなんて男冥利に尽きる。


(それにしても一般人に致命傷を負わせられるとは、俺も修行不足だな)


「麻酔が抜けるまで、しばらく視界が悪いと思うけど我慢してね」


「シズも疲れているだろ、気持ちは嬉しいけどあんま無理するな」


「もうっ。わたしの心配より、いまはあなたの心配でしょ」


「はは……シズはいつも通りだな。安心した」


 泣き腫らした目、手入れのされていない髪を見れば、

 シズがかなり無理をして気を張っているのは分かる。


 だけどそれを指摘すると、

 シズは恥ずかしがる。

 だから黙っておこう。


 なかなか可愛いところがある幼馴染である。

 たまにからかうと面白いのだが、今日は勘弁しよう。


「好物のリンゴ剥いてあげたから、あーんしてっ」


 俺は口をあける。

 食べやすいように小さめに切ったリンゴ。うまい。


 小学校の頃に、家庭科の授業で果物ナイフを使う事が

 あったのだがシズはナイフを扱うのが苦手なようで、

 なかなか上手く切ることができず、何度も失敗したのだ。


 俺はそれを間近に見て、失敗したリンゴをたくさん食べた。

 シズは無理しなくても良いとは言っていたが、

 単純に俺が食べたいと思ったのだ。


 その姿を見て、シズは俺がリンゴが好きだと思ったようだ。


(リンゴが好きというより、幼馴染のシズが剥いてくれたリンゴが好きというのが正確だ。ぶっちゃけ、スーパーでリンゴを自分で買ったことなんて一度もないしな)


 シズは非の打ち所がない完璧美少女に見えるが、

 その実、かなりの努力家なのだ。



 俺はそれを小学校の頃のリンゴの一件で知ることになった。 

 そして、その姿をみて俺はシズをより一層好きになるのであった。

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