第9話『幼馴染と同居開始』
「そういうわけだから、鴉は静歌さんと家でしばらく暮らしてもらう」
「親父は?」
「俺の方は、静歌さんのご両親の護衛だ。静歌さんはお前に任せた」
「もちろんだ。親父、まだ動けるのか?」
「全盛期よりは鈍っているだろう、だが問題ない」
「そっか」
「こちら側が例の男の存在に勘付いた事を今の所は悟られてはいないようだ。クロと静歌さんは、普段どおりの生活をしていてくれ」
「わかった」
「なにか分かったら連絡する。お前は、スマホは常に繋がる状態にしておけ」
「おう、親父も、そっちはそっちで任せたぜ」
「無論の事だ。五条院は俺の命にかけて守り通す」
親父はそう言い、巨大なスーツケースと、
バックパックを担ぎ、家を出ていった。
「クロのお父さんって、随分とハードボイルドな人だったのね。子供の頃あったときは優しそうな人だったから、随分印象が違って驚いたわ」
「家でも普段はゆるいおっさんって感じだ。万が一にも五条家の人間に被害がおよぶ可能性がある事態で、相当に気を張ってんだろう」
「クロだけじゃなくて、ご両親にも迷惑かけちゃって、ごめん」
「気にするな。親父も、誇りを持ってやっている事だ」
「クロのお父さんの本業のほうは大丈夫なの?」
「仕事は有給休暇とるから大丈夫だそうだ。有給休暇はいままで1度も使ってこなかったから、3ヶ月分くらいは有給休暇を申請する権利はあるそうだから大丈夫だ」
「そっか、分かったわ」
「それよりも、しばらくはシズには俺の部屋で寝泊まりしてもらうんだけど、あんまり広い部屋じゃないけど大丈夫か?」
「大丈夫よ。そういえば、わたしがクロの家にあそびに来るのは小学校の頃以来ね。成長したクロの部屋を見に行くのは楽しみだわ」
「つまんねーぞ。普通に殺風景な部屋だからな」
「そんなこと言って。それじゃぁ、えっちな本とか発見しちゃおうかなー」
「はいはい」
シズが俺の部屋の障子を開ける。
「あら。なんというか、意外。クロの部屋って随分とサイバーな感じの部屋ねぇ。パソコンとディスプレイがいっぱい」
「だろ? つーかさ、現代の忍の諜報活動ってのはほとんどがネット上で完結するんだよ。だから、こんな感じになるんだよ。忍っぽくないけど」
「ふーん。でも、やっぱりえっちな本は隠しているんでしょ?」
「そういうのはねーって。俺は忍だぞ?」
シズがベッドの下を覗いている。
ふひひっ……そんなところに隠すはずもない。
――愚かな。
「クロ~。パソコン電源つけたままだよー?」
「それは常時起動させてるから問題ないんだ」
「ふーん。それじゃ、ちょっといじっちゃお」
「
「あら、わたしの誕生日を入れたら開いちゃた」
「――――ッッ」
「えーっと。それじゃあ、ピクチャホルダーを見ちゃおっかなぁー。えーっと、この日付だけ書かれたフォルダは、っと」
「おい! シズ、マジでやめろおおおぉおおおっ!!」
「………………」
「大変、申し訳ございませんでした」
俺は土下座で謝る。
「これ、何かしらぁ……? わたしの、お風呂場の写真が沢山あるようですけど?」
「あの~。それはですね、極秘任務で、言えないんでしゅっ。ふひっ」
「あらー。あなたに命令を出している方は、変態さんだったのかしらぁ?」
「それはですね。いろいろと、込み入って、複雑な事情がありまして」
「クロくぅん……?」
「はいっ! 申し訳ございません。完全にわたしの趣味で隠し撮りしていました! 変態ですみません。その写真はすべて、わたしの趣味で撮ったものです!」
「……知っているわよ、クロがむっつりスケベなことは」
「えっ、僕なんかしちゃいました?」
「クロ、授業中のほとんどの時間ずっとわたしの太ももを眺めていたでしょ?」
「ふひっ?」
「なによぉ。もしかして、わたしが気づいていないと思っていたのぉ?」
「あぁ…………あれは~、だな」
「いつもの極秘任務?」
「そうそう! そうだよ、極秘任務! 密命だよ」
「そんなわけないでしょ。おバカ」
「あばばばばばばばばば……」
「毎日、クロのために太ももをむくませないようにマッサージしたり、乳液で手入れしたり大変だったんだからね? ニーハイソックスだって毎日どれ履いていこうか悩んでいたんだから」
(確かに……毎日、輝くばかりの美しい太ももだった。あの美しい太ももを維持するために、隠れた努力をしていたんだなぁ……泣ける)
「でもね、実は少しだけ嬉しかったの」
「それは、シズにもそういう趣味があったということか?」
「ちーがーうー。嬉しかったのは、クロがわたしのことを女の子として見てくれていること。ほら、わたしの生足が見たければ見せてあげるわよ。目の前に実物の生足があるわよ」
「…………っ!!」
なぜだ! なぜここで見つめられない!
心臓が高鳴り、額から汗しか流れない。
「ふふっ、クロ、昔とあんまりかわってないんだね」
「んなことねぇよ」
「あるわよ。昔からちょっとムッツリすけべなのに、いざとなると手が出せないのよね。わたし、クロのそういうところ、かわいいとおもっているわ」
「お……俺はなぁっ、男だ。かわいい、とか言うなっ!」
「そうそう、ご褒美にチューしてあげるわ。目をつぶって」
(って、それは俺の台詞だろ! まぁ、目はつぶるけど!!)
ひたいにひんやりと冷たくて柔らかい感触。
「唇にすると思った? 残念、オデコでしたっ!」
「ふえぇっ……」
「そういうわけで、これからもよろしくね。クロ!」
そんな感じで俺と幼馴染の同居生活が始まるのであった。
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