この面白さは何だろう。
掴みどころがないのだけれど、同時に掴みどころだらけなのだ。
冒頭の面白さに気づいた人も多いと思う。
梟視点なのだけれど、彼は実によく見ている。
そして散りばめられている謎。
瞳の魔女、太陽の残滓、銀色がかえる森……
全てが何だろうとのめり込んでいくように言葉が並んで行く。
もうこの時点で心を掴まれてしまい、先を知りたくなるのだ。
村人達は瞳の魔女にお願い事をしにやってくるのだけど、いつも文房具にかけられてしまう。
なぜに文房具?
そこに何の意味があるのか知りたくなる。
でもある少女だけは文房具に変えられる事なく弟子になる。
なぜ彼女だけは文房具に変えられなかったのか……ここにも意味がある。
一つ一つの伏線を丁寧に置いてあり、読み進めると理由がわかる。
でもその理由もストレートにわかるものと考えるものがあって、そのために二度三度読みたくなるのだ。
こうかもしれないと自分なりに理由をつけて再度読むと……また違う印象になる。
こんなことってあるんだと自分の中でも驚いたり。
面白さを感じる物語であり、スッキリする物語であり、深い物語でもある。
読む人それぞれの感じ方が違うというのもまた面白いところで……
同じ人が読んでも、その時の心のありようで別なものが見えてくる気がする。
これは凄い!本当にそう思った。
物語の中にちゃんと哲学もあって、感じ取ると見えてくるものが更に深くなる気がしている。
いい物語を読んだ。
これもまた、二度三度よむのだろうな。
名前に縛られない梟と《瞳の魔女》太陽の残滓が浮遊し続ける銀河の空とそれらの輝きが吸いこまれていく《銀色が帰る森》……魔女によって文房具に変えられるひとびと、無自覚の《罪悪》……
これほどまでにどきどきする造語の数々を産みだし、なおかつ物語に落としこめるなんて――この物語の著者は間違いなく、世界観の魔術師です。
破天荒な設定の数々がただのギミックではなく、寓意と読者にたいする問い掛けを含んで機能しているのが、ほんとうに凄い。圧巻です。
お伽噺のようなふんいきに哲学の馨りを漂わせた素晴らしい世界観に、呼吸をするのも惜しいほどに読みふけってしまいました。
ペシミスティックでありながら何処か可愛らしい《瞳の魔女》と、純真無垢な《魔女の弟子》の関係もなんともいえず、最後に暖かな余韻を残してくれます。果たして彼女は彼女のどこにキスをしたのか、想像が膨らみすぎてこまりますね。
ほんとうにおすすめの短編です。
是非とも漫画化したものを拝読したいものですね。
「私は梟である。名前は、ない方が自由に羽ばたけるだろうと瞳の魔女が言っていた。」
この冒頭に、早くも心をつかまれた。
夏目漱石の『吾輩は猫である』の冒頭のオマージュだが、アレンジの仕方がとてもおしゃれで格好いい。オマージュでありながら、作者自身の個性が強く表れている。
読み進めていくと、このフレーズが変化しながら何度か出てくる。
そこから物語の動きを読み取ることができて面白い。
また、梟(ふくろう)がストーリーテラーの役割をすることで童話のような世界観を見事に表現している。
***
この世界では、人の罪悪が歌によって星になり、星が集まって太陽になる。
太陽は街を照らし、森の裏側で砕けて星になる。
その星が蓄えられ、歌唄いが産まれる。
童話的な世界観が、美しい表現でつづられる。文章のところどころに隠された独特な描写に個性が光る。
たとえば、「それは肉とキノコの匂いを纏っていた。」
これは煙についての描写である。
また、シャシエと魔女が話をしているときの「沈黙が、一滴、二滴、と二人の間に落ちた。」という表現なども好きだ。
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読み進めていくと、とても寓話的な物語だとわかる。
シャシエという少女、魔女、そしてオーグス民と呼ばれる人々が登場する。
少女シャシエは太陽のような存在。
しかし、人の醜さを見て光を失った。
そして「瞳の魔女」に助力を求める。
瞳の魔女は「銀色が帰る森」で暮らしている。
彼女はまるで夜の象徴だ。
一人きりで過ごす夜は、誰の悪意にも晒されず、心穏やかなものだろう。しかしそれは同時に孤独でもある。
オーグスの民は、太陽が大きくなることを恐れている。
しかし、彼らは太陽がないと生きていけないはずなのだ。
それは、キャッチコピーに書かれた「人はね。ずるさによって生きられるが、そのずるさによって苦しめられもする」というジレンマに通じる。
そのジレンマを向けられて逃げるシャシエ。
彼女を救うため、魔女は力を使う。
太陽のような少女との出会いが、魔女を変えたのだ。
そして物語は、希望の光が見える終わりを迎える。
心に光が差すような光景を一緒に観よう、と魔女がシャシエに告げるシーンが温かで美しい。
これは、太陽と夜が出会う物語なのだ。
私はそう思っている。
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ところで、作品のエピソードタイトルにもご注目あれ。
もともとこの作品は、作者さんと「瞳」さん、そして「聖願心理」さんとのやり取りから生まれたのだそうだが、エピソードタイトルの一文字目を下から縦読みすると……!
こういった遊び心が楽しい作品でもある。
(*´ω`*)