田舎者でも女でも、戦う理由と矜恃がある。臆病な英雄が切り拓く未来を見よ

本作はあらすじにもある通り、南北戦争時代のアメリカを「モチーフにした」作品です。
しかし、情景や空気感など細部までが緻密に描き込まれ、まるで正史を追っているかのようでした。
主人公メアリが敵兵を撃ち抜いた、その銃の反動を感じるほどに。

強者と弱者。奪う者と奪われる者。
虐げられていた者たちが決起し、理不尽な支配者に立ち向かっていく姿は、現代にもある様々な社会の不具合への問い掛けにも通じるところがあるでしょう。

奪われたからと言って、奪うことは許されるのか。
故郷を焼かれたメアリは、女たちを引き連れたこの行軍の最中、何度も自問します。
その優しい心根は「臆病」とも取れますが、相手と同じ暴力を振るう矛盾に悩み、多くの人の苦しみを知り、それを越えた先に見た光は、よほどの勇気がなければ目指せないものでした。

愛する夫ロイへの想いを携え、同じ怒りだけでなく同じ未来を共有する仲間たちと歩みを揃えて。
過酷な状況にもめげず、強大な敵を前に背筋を伸ばして立ったメアリは、どんな支配者よりも気高く美しいと感じました。

いつの時代も、体制を変えるのには凄まじい苦痛を伴います。
新しい時代を切り拓いた彼女たちに、敬意を表します。
本当にこんな歴史があったのではないかと。
そう信じたくなる、非常に読み応えのある物語でした。