本作は、架空の世界での戦争に巻き込まれつつも対峙して行く人々を描いております。
メアリとロイはノソンと言うのんびりした田舎町に育ち、のちに結婚します。
所が、ロイが軍人として町から居なくなってしまいました。
手紙を楽しみにしていたのに、届かなくなる。
それだけで、私は胸にチクリと刺さるものがありました。
何故か、ノソンは襲撃されます。
メアリは幼い頃のお転婆さを失って、女性として辛い目に遭います。
横暴な敵軍は女性達をどうするつもりなのかとハラハラしていると、徐々に抵抗を始めます。
いつもは圃場で汗を流すメアリが、最初に銃を手にしたとき、緊迫感が高まります。
人を殺したことがないから。
そして、人を殺してもいいと思ったこともないから。
平和に暮らしていた私達の自由を返して欲しいだけで、ロイの傍にいたいだけで、大人しいメアリは武器の使い方を学びました。
最悪、殴るだけでも違うと言うのには、成程と思ったものです。
彼女は一人では旅立ちませんでした。
後押しが必要だったのでしょう。
友人のステラとアナが付き添ってくれました。
そして、町の女性達も立ち上がり、帰る所のない町と家族に別れを告げ、デスパレードの意の一つ、死に物狂いで敵軍の地へと向かったのです。
それは、傍から見たら無謀にも思える戦の旅、征旅でした。
流血が生と死を分かつとき、勝者のみが歩き続けることができます。
ときに戦術に長けた淑女達の勝ちに沸き、暴力と権力で圧迫される世情に猛りながら。
そして、彼女のテーマである「どうして」を繰り返し奥歯で噛んで進んで行きます。
私は、本作のテーマの一つ、戦争に正義はないと言う所に同感いたします。
本作は、また、視点が変わるときに「Break time」の章になりますので、読んでいても前後のブレがありません。
寧ろ、深掘りが上手くできていると思いました。
筆致は、地の文が多少多いと感じますが、空行や間で読み易く工夫がなされております。
何よりも練られた文に疑問を感じませんので、安定感があります。
毎日更新の191,016文字で締め括られたこの大長編を最後まで読み切って、読後感のいいままにこのレビューを書かせていただきました。
是非、メアリ達の未来を感じていただきたいと思います。
本作はあらすじにもある通り、南北戦争時代のアメリカを「モチーフにした」作品です。
しかし、情景や空気感など細部までが緻密に描き込まれ、まるで正史を追っているかのようでした。
主人公メアリが敵兵を撃ち抜いた、その銃の反動を感じるほどに。
強者と弱者。奪う者と奪われる者。
虐げられていた者たちが決起し、理不尽な支配者に立ち向かっていく姿は、現代にもある様々な社会の不具合への問い掛けにも通じるところがあるでしょう。
奪われたからと言って、奪うことは許されるのか。
故郷を焼かれたメアリは、女たちを引き連れたこの行軍の最中、何度も自問します。
その優しい心根は「臆病」とも取れますが、相手と同じ暴力を振るう矛盾に悩み、多くの人の苦しみを知り、それを越えた先に見た光は、よほどの勇気がなければ目指せないものでした。
愛する夫ロイへの想いを携え、同じ怒りだけでなく同じ未来を共有する仲間たちと歩みを揃えて。
過酷な状況にもめげず、強大な敵を前に背筋を伸ばして立ったメアリは、どんな支配者よりも気高く美しいと感じました。
いつの時代も、体制を変えるのには凄まじい苦痛を伴います。
新しい時代を切り拓いた彼女たちに、敬意を表します。
本当にこんな歴史があったのではないかと。
そう信じたくなる、非常に読み応えのある物語でした。