あとがき

 長い物語を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 本当にたくさんの方に読んでいただいて、フォロー、♡、コメント、☆、レビューに励まされ、最後まで書き上げることができました。


 最後に「あとがき」は蛇足かもしれませんが……私は「あとがき」を読むのがけっこう好きなのです。

 それは、物語世界や登場人物たちと別れるのをすこしでも先に延ばすための果敢はかない抵抗なのかもしれません。そうして読者として物語の名残りを惜しんできたのと同様、いまは作者として物語と、読者の皆様とのお別れを惜しみたい気分でいます。



1.読んでいただいた方への別れのご挨拶(……でもまたお会いしましょう)

 多くのご感想をいただきながら書くというのは、希有な経験でした。(これはもう、カクヨムの最大の魅力かもしれません)

 この物語は私にとって五作目、初めて物語を書いてからまだ半年。一から勉強のつもりで文体も、ストーリーも、人物造形も、試行錯誤しながら書いていた私にとって、ご感想をいただけるのは毎日答え合わせをしているようなもので、どれだけ心強かったことか。それは道に迷わないよう足下を照らす、灯りのようでした。


 例えばガブリエル。彼が読者に支持されるかどうか、実は自信がなかったのです。マカレーナとダニエリに愛されるに値する男と読者に認められなければ、この物語は成り立ちません。ところが彼の魅力はあまりきらびやかなものではなくって……大丈夫かなあ、と。蓋を開けてみると熱烈にファン宣言してくださる方もいて、ずいぶん勇気づけられました。

 あるいはまた、マカレーナ派とダニエリ派の方がいらっしゃって、やきもきされているのを聞いては、うれしくてぐっとこぶしを握りしめました。

 フアンも交えた主役級四人にそれぞれ好きと言ってくださる方がいて、脇役に注目していただくコメントもあって、終盤でマカレーナがコカインに手を染め命を縮めていくところでは悲鳴を上げていただいたり。日々、書く活力を与えていただいたのでした。


 また、いただいたコメントに触発されて登場人物の性格設定が深まっていったり、エピソードに変化が生まれたりもしました。なかには既に書いた部分を書き直したことも。本当に、皆さまに支えられて出来上がった物語です。

 


2.物語への惜別を

 ややマニアックな種明かしを鎮魂歌代わりに、物語へ別れを告げたいと思います。


 登場人物の名にはすこし遊び心を入れました。幾つかはコロンビアの作家ガルシア・マルケス由来です。

 まずはガブリエル。ガルシア・マルケス自身の名で、愛称ガビも家族や友人が彼をそう呼ぶもの。ただし人物造形に彼の面影はまったくありません。むしろ、『カラマーゾフの兄弟』のアリョーシャが近いかもしれません。しくも彼の父はこう言いました。「もっとも、お前は天使と同じで、何物も手をつけられやせんけどな」

 レメディオスは『百年の孤独』で夭逝する少女(この小説には同名の者が頻出するのですが、印象的なふたりのレメディオスが出てきて、ともに夭逝します)。

 ナボは、短編『天使を待たせたナボ』に出てくる黒人少年で、これも馬に蹴られて早世。人の恋路を邪魔させてやろうかとも考えましたが、どちらかというと見守る役になりました。

 ホセも『百年の孤独』に頻出する重要人物ホセ・アルカディオがいますが、こちらは特に意識せず、友人の名からとりました。そもそも「ホセ」は、南米ではクラスでも職場でも必ず名前のかぶる、超メジャーな名前なのです。前半大活躍してくれた彼も、エピソードを幾つか削ったおかげで後半はすっかり出番が少なくなってしまいました。


 フアンは、洗礼者聖ヨハネから。キリスト教世界でヨハネといえばもう一人、福音書記者ヨハネがいますので、区別するためわざわざ彼の姓を「洗礼者バウティスタ」としました。荒野で、牢獄で、救い主の到来を叫びいずれサロメのために首をねられる男。

 マカレーナはセビリアの「マカレナ教会」から。娼婦で女王、自由気儘な彼女が、それでも聖母性を併せ持つことを表したくて、この教会の「涙を流す聖母像」に仮託しました。

 「罪の女」とは、悪漢の愛人で娼婦、男を手玉にとる姦婦を指すのだと、深く考えず読み始められるよう書いたつもりですが、最後まで読まれた方は、彼女の「罪」は其処そこではないとお分かりいただけたことと思います。(じゃあなにが罪かというと……答えは、たぶん一つではありません)


 話は変わって文章について。

 気づかれるほどの変化ではないかもしれませんが、実は前3編、中3編、後3編で文章の手触りを少しずつ変えるよう意識しました。前編は軽く、中編はスタイリッシュ、後編は甘やかに。書くのはそれぞれ楽しかったのですが、自分のなかで一番難しいと思ったのが前編でした。軽く、の加減に迷うし、そもそも軽くてかつ魅力的な文章って、特別なセンスを要するぞ、と。でもそれも勉強、懲りずにまたチャレンジしたいと思います。


 ………………


 語りたいことはまだ山ほどありますが、呆れられる前にそろそろおいとまいたします。長い物語におつきあいいただきありがとうございました。またいずれ、別の物語でお会いできれば……お気が向かれましたらよろしくお願いします。それまでしばしのお別れです。皆さま、ごきげんよう。

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罪の女の歌を歌おう、コカ畑の木陰で、カリブの波間で 久里 琳 @KRN4

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