14話 お姫様と一時の会合
中庭の入口にある、段数の少ない階段に腰掛け、ただじっと俺を見詰めて来る深紅のドレス姿を身に纏った少女。
純白の肌に、風に流される程軽やかな金色の髪。
小さな顔にブルーの瞳は大きな二重が輝き、桃色の薄い唇、少し尖った鼻が美しい。
間違いなく美少女の部類に入るだろう。
だがその整い過ぎた顔だちと感情の読み取れない瞳が、何処か近付き難い雰囲気を醸し出している。
そんな彼女が朝食前の早い時間から彼女は何故こんな所に来たのだろうか?
「マチルダ様……。何故、俺の拙い槍術を眺めておられるのですか?お暇の潰し方としては随分かと思われますが。」
下手なタップダンスを踊る様に汗水垂らして槍術を体に覚えさせている俺を眺めて一体何が楽しいのかと考える。
だが彼女の答えは何処か見当違いだった。
「あなた、その年の男性にしては珍しく武器の使い方がへたっぴなのね。」
彼女の口から紡ぎ出される涼やかな声に俺は多少の憤りを覚える。
何と返答していいのか分からず、俺はこめかみを掻いた。
「ご指摘どうも有り難とうございます。如何せん武器の扱いが初めてな物でまだ分からぬ事ばかりなのです。」
「そう?不思議ね。その割りには頭で本質を理解している様に見えるのだけれど。」
こちらを射抜く鋭い瞳に、堪らず俺は降参ですよと手を挙げた。
「感服しました姫様。優れた洞察力をお持ちな様で。」
「それはどうも騎士様。でもごめんなさいね。私、ちょっとズルをしていたの。」
「と言うと、姫様も特殊な力……加護持ちでございますか?」
彼女は後ろ手に長くしなやかに伸びた金髪を風に流しながら答える。
「ご明察。≪知見の加護≫と言う"パーソナルスキル"よ。限度が有るけれど、見ただけで相手の事がぼんやりと理解出来るの。だから、あなたの持っている便利そうな"パーソナルスキル"も分かったの。」
クジョウ・ヨシフルの脳裏にチラッとあの事が浮かぶ。
彼女は武芸に達した者にはとても見えないとなると……。
「俺と同じですか…。解放にレベルのいらない加護"ファーストスキル"。加護持ちの中でも稀に出る特殊な"パーソナルスキル"だと存じていたのですが。」
「意外と頭が切れるのね。でも私、そんなにか弱く見えるかしら?」
「それは……。意地悪な質問ですね。姫様を か弱い と言う偏見で語れば無礼この上有りませんし、武芸に達してお強いだろと考えてもそれは女性に対して失礼かと。」
それまでは値踏みをするように冷たい目で眺めていたマチルダ姫の表情がふわっと崩れる。
彼女はさぞや面白そうに笑い出た。
「あなた、面白いのね。朝の退屈な時間を潰そうと思って何となく見に来たのだけれど興味が湧いたわ。あなたの事何と呼べば良いかしら?」
「どうぞヨシフルと本名でお呼びください。」
「そう、分かったわ。じゃあ"ヨシフ君"、これから朝食を取るのだけれど一緒に如何?」
シベリアの独裁者の名前で呼ばれた俺は思わず眉間に刻まれていたシワが一層深くなるのを感じる。
いちいち些細な嫌味を言うのが上手なお方だ。その度に多少イラっと来る。
それでも何とか苦笑いしながら俺は答えた。
「魅力的なお誘いです。丁度腹の虫が無く頃合いでしたので御一緒させて頂きます。ですが俺の名前は…ヨシフルです…。」
階段から立ち上がり背を向けて歩き出すマチルダ姫。
彼女は腰の後ろで指を組ながら顔だけこちらに向けると少しはにかんだ。
「お父様と話していた時もそうだったけれど、ヨシフと言う騎士名を貰っていた時微妙な顔していたじゃない。あの時の表情が面白くて、ついね。あと呼びやすいじゃない。ヨシフって。」
何と言っても止めてはくれないだろうマチルダ姫は、また感情の読み取れない瞳に戻す。
「朝も頃合いだし、そんな所でポケーっとつ立って無いで着いてきてヨシフ。もうそろそろテーブルに朝ごはんが並べられる時間よ。お父様より早く行かないと、待たせるだなんてとても出来ないわ。」
マチルダ姫はスタスタと薄暗い石造りの廊下を歩いて行く。
俺は短槍の穂先を取り付け形の鞘に収納するとマチルダ姫の後を追いかけて行った。
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