5話 新たなる世界へ


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日本国 午前1時24分04秒

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そう言うとリリーヤ・ブルジアちゃんがスーツの内ポケットから取り出したのは銀製の小さな板。


良く見れば魔方陣の様な物が刻まれている。


それを地面に置くと聞いた事もない魔法を詠唱した。




「≪陰陽合成魔法≫ダークライトマジック≪空間跳躍≫グリーシャ。」




すると眼下の銀盤はぐにゃぐにゃと溶け出し、見る見る内に二人を包み込むだけの魔方陣になっていた。


そして周りの風景が刹那の間に切り替わる。慌てて辺りを見回すと気がつけばタワマン外の薄暗い細道だ。


足元の地面をしっかり踏みしめてから感想を言う。




「全く。凄い物だな、魔法とは。先程から53年間生きてきた俺の常識がいとも容易く覆され続けていて、にわかに現実味が無いのだ。次は一体どう驚かせてくれる?」




事実俺は未だに夢を見ているのではないかと心配でもある。


そんな俺の杞憂など気にもせずリリーヤ・ブルジアちゃんはそこに止めてあった赤いミニクーパーを指差す。


まさかとは思ったがもしやこれも彼女の仕掛けなのだろうか?




「乗って下さい。」




「やはりそうだったか。しかしリリーヤちゃんの見た目は至って少女だ。俺はロリコンと交通違反で日本国のお縄にかかりたくは無いぞ。」




そこで俺はある事に気が付く。




「それとも、これとて本当に車なのかね?」



「好古さんは勘が鋭いですね。乗ったら分かりますよ。」



勘などナマクラであったらそれこそ政治家としてやっていけない。


だが、それがナマクラになってしまったのだから今こうしている、と考えればさもありなん。


そんな事を考えながら、勧められるがままにミニクーパーの様な何かのドアを開けて車内を除き混む。




「何だ…これは!?」




車内の空間は周りとずれているのか、違和感を感じる程に広くなっている。


各所に中世風な華美な装飾が施されており、更に中央には幾重にも重ねられた銀製の羅針盤がクルクルと様々な方向に回転していた。


見聞はこの程度にしておこう。


除き込んでいても仕方が有るまい。

俺は逸る気持ちを抑え助手席に乗り込む。




「これからあちらの世界にジャンプします。」




そう言ってリリーヤ・ブルジアちゃんは謎の自動車のエンジンをかける。


車で異世界に行くとは、何とも斬新だ。


しかしこのまま走って首都高に行く訳にも行くまい。


そう思っていた矢先、走り出す車窓から外を眺めていると異変に気がついた。




「飛ぶだと……!車が!?」




何と文字通り夜空を滑空し出したのだ。


見下ろす眼下に広がるのは、New Yorkと並び世界一位にまで発展したNew Tokyoと呼ばれる超巨大経済都市『新東京都』の豪華な夜景。


『京都』との首都並立制により今はこの東京に皇居や首相官邸など、国政の重要建造物の幾つかがここには無いが、共産国家との『第三次世界大戦』戦後の瓦礫の山と化した旧東京からは想像も出来なかった光景だ。


これらは全て敗戦国からの莫大な額の賠償金やリニアモーター車の開通による両首都間の移動の高速化があって初めてなし得た技。


30分で移動出来るのだから技術の進歩とは実に恐ろしい。


だがそれ程の水位の結晶でさえこんな車を産み出すにはきっと至らないだろう。


魔法とは何と規格外な物かと改めて思い知らされる。




「大気圏に入ったらあちらの世界にワープします。着くまでには時間もかかりますので、今の内にこの薬を飲んで下さい。」




そう言ってリリーヤ・ブルジアちゃんから渡されたのは、見るからに魔法薬らしいガラス瓶のポーション。




「それを飲むと18歳まで若返ります。多分洋服の大きさが合わなくなると思いますがそこは諦めて下さい。それが済んだらそこの緑趙真盤に手をかざして下さい。」




九条好古は言われるがままに手渡されたポーションの蓋を開けて一気に飲み干す。


旨くも不味くもない、何とも言えない味。


しかし変化は劇的だ。手を見ればどんどんとシワが無くなって綺麗に成っていく。


ビール腹だった腹部も見る見る贅肉が消し飛び、あっという間に18歳当時の筋肉質で健康な身体だ。


フロントガラスに反射してる自分の顔も見える。




「……本当に当時の自分だ。」




自分の顔をペタペタと触って何度も確認するが、やはり導き出される答えの結果は変わらない……本当に若返っている。


身長は当時から変わって居ないのでスーツの丈に問題は無いが、急激に昔のスリムな体型になった為、来ていた肩周りや腰周りがブカブカだ。




「驚いてばかりではいられまい。次は緑趙真盤だったか?」




聞いた事もない名前。


だがおそらくは車内中央に堂々設置されているこの羅針盤の事だろう。言われた通りこれに片手を翳す。




『検知。クジョウ・ヨシフル。職業。マジックライダー。検知。魔導属性。氷結、邪悪。検知。保有魔力量。オーバー6185570。検知。パーソナルスキル。死神の加護、適応の加護、疾風の加護。確認。強力な個体と認定。魔法教会本山にデータを送信します。』




唐突に聴こえて来た機械質な音声。


いかにもな内容を読み上げているが、目の前のトンデモ現象にもう俺は驚かなくなってきている。

これが免疫だろうか?




「しかし何だね。聞く限りだと邪悪だ、死神だ、と。まるで悪役じゃないか。」




ミニクーパーで夜空を滑空するリリーヤ・ブルジアちゃんに訴える様な気持ちで尋ねるが返答は帰って来ない。


仕方ないと外の風景を眺める。相変わらずの真っ暗な世界。


眼下には最早日本列島その物が写っている。と言う事は相当な高度だろう。


おかげで結構寒いし空気も薄い。





そうやってボーっと外を眺め続けておよそ10分。


視界に異変が起こり始めた。




「うわっ!何だこれは…!急に窓の外が!眩しいっ!」




強烈な光が視界を覆い尽くし何も見えなくなる。


眼球がやられそうだ。


両手で視界をふさぎ目を瞑るが全く効果がない。


そして唐突に訪れるフラッシュバックの様な衝撃に呑まれ………………………………。





この瞬間に、俺は本いた世界の人間では無くなった。



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フランゼ王国 東ケルン城 午前9時00分00秒

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リリーヤ・ブルジアちゃんと共に車から降車し思い切り身体を伸ばす。



そして周りを見回せば自ずとここが元いた世界で無いのだと分かってくる。



目の前の王座に腰かける白髪の老人と、その隣に立つ赤いドレスを身に纏った美少女。




「我が王国の召喚に応じてくれた者は、そなたで間違い有るまいな。よく来てくれた、勇者よ。わしはこのフランゼ諸王国の北方の王、カロルド・フォン・フランゼじゃ。」




そう言って御老人は俺に笑いかけた。



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[後書き]


ここまで読んで下さった読者の方々に先ずは感謝を伝えさせて下さい。


本当に有り難うございます。


是非とも評化とコメント、星レビューの程を宜しくお願いします。

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