4話 決意を胸に
ーーーーーーーーーーーーーーーー
日本国 午前1時12分37秒
ーーーーーーーーーーーーーーーー
瞼を開くとそこには変わらぬ佇まいで少女が立っていた。
「いかがでしたか?何か大切な物を思い出せましたでしょうか?」
「わかっている事を敢えて聞いて来るとは。だが君の思惑通りだ。神とやらには散々文句を言ってやりたいが、君の口車に乗ってやろう。行こうじゃないか異世界とやらに。」
すると少女は喜ぶのでもなくムッとした表情をする。
これは…もしや拗ねているのか?
「分かって頂けて大変結構なのですが、いい加減に僕の事を子供だとか君だとかで呼ばないで欲しいです。はっきり名前で呼んで貰えませんか?」
「は…はは…はっ…はっはっはっは!何だ、何だねそんな事かね!」
「そんな事とはどういう事ですか!」
「いやぁ何も、ただの拗ねた可愛らしい少女ではないか!すまないね、見誤っていた。非礼を詫びよう。リリーヤちゃんが正しかった。」
「僕はちゃん付けに余り馴れていないです。」
「では、止めるかね?」
俺がそう尋ねるとリリーヤ・ブルジアちゃんは思いもよらぬ返答を返して来た。
「い…いえ、結構です!その、僕は…ちゃん付けされるのが少しばかり…いえ、300年振りだったもので……。」
「は?」
「いえ…その…ですから300年振りと………。」
目の前の可愛らしく恥じらう少女、改めリリーヤ・ブルジアちゃんの姿を眺めながらふと考える。
300年前と言えば、丁度江戸幕府九代将軍 徳川家重のころ。
大昔だ、まごうことなき大昔だ。
それを少し前と言いかけるリリーヤちゃん。
外見は14歳程だろうか?
だが果たしてそんな彼女の年齢は本当にニンゲンの少女の物なのだろうか?
もしそうなら歴史上稀な年増と言う事だが。
「九条好古さん、一つ警告をしておきましょう。余り僕の年齢について考えない事です。手元が滑ってうっかり炭にしかねませんから。」
そうであった。
全く面倒な事にリリーヤ・ブルジアちゃんは俺の心を読んでいるのだ。
迂闊に不審な考え事をするのは止めておこう。
「怖い事を言ってくれるな。で、俺はこれからどうすれば良いかね?」
「簡単な話しです。異世界の救世主になって下さい。」
「簡単など……気安く言ってくれるがな………」
「でも好古さんもそうしたいのでしょう?」
全く、誘導尋問も良いところだ。
あんな悲惨な風景を見せられてほっとける奴の気が知れん。
俺に出来るなら……あの人達を助けたい。
「あぁ、そうだな。しかしどうやって。」
「方法は何でも構いません。例えば好古さんの理想とする国家を異世界に作り上げる……とか。」
成る程と好古は自分がこの誘いの理由に気が付く。
「不幸な邦人をお連れ…か。正に建前だな。本当の理由は……俺がこの日本でも同じ事をした立役者の1人だからか?」
「はい。神は好古さんの力量を見込んでおられるのです。好古さん、あなたの知恵が頼りなのです。」
はぁ、と溜息を吐くと好古はリリーヤちゃんに己の真意を言い放つ。
「方法は何でも構わないと言ったな。なら民主主義の近代国家を建国してやる。そして国内を平和にして見せる。どんな手を使ってもだ。」
俺の意思に満足したのか、真っ直ぐ俺を見上げていたリリーヤちゃんはニヤリとする。
「過度な自己満足だと笑うか?それとも無謀な試みだと一喝するか?」
「いえ、良い志です。これから御供させて頂く僕としても少し興味が沸きました。協力させて頂きましょう。」
「御供って……俺を異世界に送り届けるだけでは無いのか?」
「はい。召喚後も被召喚者のサポートをするのも僕の務めですから。」
「そうか。なら先ず今を何とかしてくれ。どうやらリビングから聞こえて来るインターホンの音からして既にここは九条好古と言う特ダネを目当てに寄ってきたマスコミに包囲されているようだ。」
「何も問題ありません。振り切りましょう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます