16話 食料危機
「………有りません。南部からの馬車が止まったそうです。この領地ではパンの生産は出来ないとカロルド陛下は仰っておりました。そのしわ寄せかと。」
リリーヤちゃんは結構歯に衣着せぬ発言をする。
だが成る程、それでパンが出なくなって、代わりに倉庫から引っ張り出したであろう物を使ってなまじ食欲の失せる雑穀粥にしたという訳で……
「馬車が止まった?それは一大事ではないか!」
この時代の大陸国家において各街や農村を繋ぐ街道は正しく生命線。
馬車が血液なら街道は血管と言った所だろう。
無論人間の体であればこれらが止まると生きていけない。それは国家とて同じ事。
如何なる理由かは伺い知らぬが何とかせねば何れ食う物が無くなるだろう。
放っておけば家畜は死ぬわ民は苦しむわで最悪の未来しかその先に無い。
国力が下がるだけならまだ許容範囲と言えるだろう。が、それとて見過ごす無能など俺が決して許さない。
「既に初期症状も後半……。領主の食事が民より先にグレードダウンするなど基本的にあり得るはずも無し。そうなると村の食事情が心配だ。まさかっ…」
最悪の場合を想定する必要があるだろう。世の中は優先順位で回っている。
権力者や富裕層にこそ物資は優先的に配偶されるのが、権力のピラミッドの構造上の仕様だ。
にも関わらず王の城たるこの東ケルン城には既にそう言った食料が見当たらない。
となると被支配者側である農民はどうなっているのか。
既に各農村の倉庫は枯渇状態に近い状態かも知れないと考えるのが妥当だろう。
しかも今は1月も上旬…まだ冬だ。
今から穀物を育てる事が出来なければ当然食う物が無くなる。
しからば農村の中でも優先的に食料が行き渡らなくなるのは家畜。
農民達は率先して屠殺を開始して食料の獲得を始めるだろう。
なのに…
「俺が来た時から既に肉は見なかった。肉はもっと領主に優先的に配分されるはずなのに…おかしい。然るに村にはもう肉も無ければ穀物もほぼ無いって事だ。さっそく食料危機か……。詰んでいるな。」
だが、そんな最悪の想像は他ならぬカロルド王によって否定される。
「そんなに心配せずともいつもの事じゃよ。さあ、先ずは座って皆で食事を取るのじゃ。話はそれからじゃな。」
うむを言わさぬ王の態度に渋々俺は席に着いた。
思わず体が仰け反りそうになる粥にしっかり対峙して、こいつを乗り越えなければ話が先に進まないのだと覚悟を決めた。
右手の人差し指と中指、親指をお椀に突っ込み、掬う様にして口元へと運べば塩気の効いてラザラとした舌触りの粥が口内全体へと広がっていく。
そして汚れた指先を真っ白なテーブルクロスで拭き取り適度に汚してから、もう一口粥へ手を伸ばし同じ動作を繰り返す。
記憶によれば……当時ではこれが正しい食事の作法であったはずだ。
確認で周りの4人のメイド達とリリーヤちゃんの確認したが、逸り誰もが同じ動作を行っていた。
「陛下、教えて下さい。馬車が止まるのはいつもの事と先程は仰っておりましたが、どういう事ですか?この国は大丈夫なのですか?」
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