1話 謎の少女
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日本国 午前1時00分00秒
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何でも早いに越した事はない。
支度を整える俺『政治家』
リュックよし、鍵よし、財布に車の免許証よし、最後に「遺書」もよし。後は電気を消して日常みたく家を出るだけだ。
つきっぱなしの超薄型テレビのリモコンに手を伸ばした俺の目に、着いていたニュースの内容が飛び込んで来る。
『宇宙エレベーター来年には完成か?2056年を目標に桑原首相が米大統領とホワイトハウスで会談』
桑原林蔵、奴の事は良く知っている…積もりだった。
あの狸ジジイ。
綺麗に剥げ上がった頭に浅黒く彫りの深い顔。
極めつけに恵比寿様のごとき笑みを顔面に張り付けていやがる。
最後まで腹の底の読めぬ男だった。
昔じゃあれだけ信頼していた顔だったのに、今さら出てくる言葉は届きもしない恨み節だけ。
全く、俺も非生産的な事を考える様になった物だと苦笑しながら呟く。
「知らないさ、今さら奴が何をしていようがこれから故人になる身の俺には伺い知らぬ事だ。」
何故ならこれから俺は自殺しに行くのだ。
場所は山梨、富士山の梺にある深い樹海。
獲物は崖。彼処なら誰にも邪魔されず事を済ませられるはず。
自殺といえば随分唐突に聞こえてしまうかもしれない。
だが、もう俺は自分の人生の無意味に絶望しているのだ。
政治家なら良くあるスキャンダルと言う奴だ。
それは真実で有ろうと無かろうと、囁かれれば最後。
待ち受けているのは他野党からの糾弾の嵐に加えソーシャルメディアによる無限拡散。
そこまでくれば噂は真実として市井に根付き、つまらない事実は忘却の彼方へ置き去りにされる。
気がつけばまんまと嵌められこの様。
何と一般的で下らない政治家人生の最後か。思わず笑いが込み上げて来そうだ。
「しかし…少し寒いな。」
東京の一等地にあるタワマン22階の俺の自室の書斎の窓からは、まだ秋と言うのに寒々とした空気が伝わってくる。
当然さ。こんな時間なんだ。
さっさとテレビを消して我が家とおさらばしよう。
自分の女々しさに言い聞かせ、握っていたリモコンに「シャットダウン」と命令する。
しかし直後に聞こえてきた音が、俺の運命を覆す事になるとはまだ知らなかった。
『ピンポーン』
薄暗い書斎に聞こえて来るのは聞き慣れたインターホンの音色。
だが今まで、これ程にインターホンの音調を作った人物を恨んだ事は無い。
断言出来る。
だが残酷にもその忌々しい音色は又も聞こえてきた。
『ピンポーン』
なぜ人が一人に成りたい時にこう面倒そうな害悪が訪れるのだ。
恐らく新聞記者、それもマスゴミと言う名の生き物だろう。
朝一番の朝刊にでも俺のスキャンダルを載せるべく、夜中に人様の迷惑も考えずのこのこやって来たのだ。
畜生め。
『ピンポーン』
しかし、今さら訪問取材など時代錯誤も良い所だ。
どれだけ気合いが入って居るのやら。
が、しかしだ、まだこのサイレンの元凶は一階のエントランスから俺を呼び掛けているに違いない。
ならば導き出される答えは簡単。
通してなるものか。
居留守を使って裏口の駐車場からこっそり出れば良いだけの事。
そうと決まったらさっさと家を出てしまおう。
そう思い玄関ドアのノブに手を掛け押し開き、そこで余りにも場違いな存在に出くわした。
「………?」
処女雪の初雪が降り積もった様な印象を受ける純白の肌と長髪の小さな女の子。
外見は何処と無く幼さを残しており、深紅に煌めく両眼が際立っている。
そして大きさに違和感を覚える程の小さなビジネススーツを見事に着こなして背徳的な美貌を漂わせる。
「えぇっと?貴方が『日本資本主義党』元党首 九条好古さんでお間違いありませんか?」
「だっ…誰だね!キミは。」
「これはこれは、僕としたことが、まだ自己紹介をしていなかったではありませんか。失礼、遅れ馳せながら僕はリリーヤ・ブルジアと申します。出自の都合上、不幸な邦人を異世界へお連れするお仕事を務めさせて貰っています。では、お迎えに上がりました九条好古さん。新たな世界が貴方を待っています。」|
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