読了したその後で、もう一度読み返してもらいたい物語。

 船が見えるまで、あと十秒。いや、五秒。サン、ニ、イチ──。

 僕とばーちゃんと、二人だけが暮らしている島に、度々やってくる少女──アカリが、荷物を満載したクルーザー船で接岸するシーンから、物語は幕を開けます。
 二人プラス時々一人の、平穏な日常が続くはずだった毎日は、ある日、島に船ごと流れついた漂流者の存在で、少しずつ壊れ始める……。


 この物語に登場してくる主要人物は僅か四人。主人公のハジメと、ばーちゃんと、時々島にやってくる少女アカリ。そして、中盤から登場してくる謎の男。
 舞台も実にシンプルで、僕とばーちゃんが暮らしている島だけで物語は進行し、そして完結します。

 しかしながら、描かれるテーマは実に壮大。
 物語の中に紛れ込んだ”異物”により日々は変貌を遂げ、やがて世界の構造にまで及ぶ話に発展していくのです。

 もしかしたらこの先の未来、本当にこんなことが起こり得るんじゃなかろうか? と薄っすら考えさせられる結末。そんな結末まで辿り着いた後で、是非、もう一度冒頭部分を読み返して欲しいですね。

 きっと、なにか違う見え方があると思いますよ?

 さて、筆者の卓越した筆力で丁寧に描かれる本作は、短編でありながらも読み応えは十分。
 純文学好き。SF好きの双方に、自信を持ってオススメできるタイトルです。
 また、筆者の代表作を知っている方なら、『ああ、何処かで見たような』という既視感を覚えるかもしれません。実際、私もそうでした。
 ですが、それが『筆者の意図的なもの』だと聞かされてから、すとんと腑に落ちたものです。

 気になった方は、お手に取っていただけると幸いです。

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