アフターパンデミックの世界で、人は緩慢に迫りくる個人の死に気付かない

コロナ禍の最中にある世界で生きる現在の我々にとって、この作品が示す未来は「あるかもしれない可能性」の一つです。

休校や外出の自粛、イベントの中止で、他人との直接的接触が避けられる今、こう考える人も多いのではないでしょうか。
「インターネットで誰かと繋がっていなかったら、とても耐えられなかっただろう」と。

本作の主人公ハジメは、生まれた時からばーちゃんと二人暮らし。
そして時々島に物資を運んでくるアカリだけが、ハジメの知る全ての人間でした。

このように、極端に限られた環境ではありますが、ハジメは特段不便を感じていません。
彼の目を通して語られる自然そのものの島の情景は美しく、緩やかな暮らしの平穏に心が洗われるようでした。

そこへ流れ着いた見知らぬ男の存在によって、読者の認識し得なかった事実が明かされていくのですが……

物語のラスト、ハジメがばーちゃんから伝えられた言葉に、皆さんは何を感じるでしょうか。
忘れられない大切なものを手にしていた思い出こそが、人を唯一無二の「個」たらしめる宝物なのかもしれません。

最後の「別れ」の情景に、寂寞とした哀しみを感じました。

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