教えるということ

 それから、ある教師がムスタファーに言いました。「教えるということについてお言葉をください」

 ムスタファーは言いました。「あなた方がまだ気づかないでいるものの、あなた方の知の夜明けに既にと存在しているもののほかに、あなた方に何かを語って聞かせることができる人はいません。

 信徒や支持者に囲まれながら神殿の陰を歩いている教師は、そのじつ自分がもっている知恵のひとかけらも彼らに与えてはいないのです。そうではなくて、自分の信仰と愛情を与えているのです。というのも、もしその教師が本当に賢者であるならば、あなた方に師自身の知恵の館に入れとは命じないでしょう。そうではなくて、より賢明にも、あなた方をみなさんご自身がお持ちの思想や知恵の敷居へと連れていくことでしょう。天文学者は、天の仕組みについて彼が知るところのうちの何かをあなた方に語って聞かせることはできます。けれども彼の知識それ自体をあなた方にあげることはできません。

 音楽家は、世界に存在する最も美しい歌やメロディをあなた方に歌って聞かせることはできます。けれども、メロディのなかに存在する仕組み、すなわちリズムを捉えるような耳をあなた方にあげることはできませんし、曲のなかでハーモニーを生み出すような声をあげることもできません。

 数を捉えることに長けた優れた数学者も、天秤や計測器の数値と、計測器それぞれの特徴をあなた方に説明することはできます。けれども、彼自身の知識それ自体をあなた方に譲渡することはできません。

 ある人のもとに悟りが降りてきても、他の人にはその翼を授けてはくれないのです。

 神の知識のなかでは、あなた方ひとりひとりに、ひとりきりの立つ場所があります。同じように、神を知ることと、大地の秘密を理解することにおいても、ひとりきりで立たなければならないのです」

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