自由

 それから、演説家がムスタファーに言いました。「自由についてお話しください」

 ムスタファーは答えました。

「あなたがたが自由というものを崇拝し、街の門の前で、そしてコンロの隣でひざまずいているのを、私はこれまでに実に何度も目にしてきました。

 ですがそれがゆえに、あなた方はかえっていっそう、暴虐で専横な主人の前でかしこまり、彼を褒め称え、彼への頌歌を口にしている奴隷のようになっているのです。その主人は自分の奴隷に対して剣を突きつけているというのに。

 ええそうです、私は実に何度も目の当たりにしてきました、神殿の森や城塞の陰で、私はあなた方のうちでもっとも自由な人たちが、自由を抱えてはいるが、その自由がむしろ首に重くのしかかる軛となり、あるいは手足を縛る堅牢な枷のようになっているさまを。

 私はこういったことをすべて目にしました。胸の奥深くにある私の心は悲しみのためにやつれ、その心からは血が流れました。

 なぜならあなた方は、自由に到達したいという欲求を自分らが身に着けるための武器に変えるまでは、そして自由を目当てや目的として語ることをやめるまでは、自由になれないからです。

 あなた方の日々が、ご自身のやっておられる労働と共にあるならば、そしてあなた方の夜が、あなた方を思い煩わせるような欠乏と共にあるならば、そして思い出すことで心痛を引き起こすような失望と共にあるならば、むしろあなた方は真に自由になれるでしょう。

 それどころか、あなた方のうちで努力や労働といった領域にふさわしい者たちに、人生の心配事や仕事について語り明かす時に、あなた方は自由になれるでしょう。あなた方の首元には困難や災難が重くのしかかっていますが、あなた方は自由に裸で重荷の下から立ち上がるのです。

 というのも、どうやってあなた方はご自身の昼と夜とを超越し、昇っていくことができるというのでしょうか、ご自身の知識の夜明けの時期に、その鎖をもって昼間の自由な時間を縛ってしまったその鎖を、これまたご自身が打ち砕かなかったならば?

 しかしながら、あなた方が「自由」と呼ぶところのものは、それは実のところ、鎖のうちでも最も手強い鎖なのです、その自由の輪が日の光に輝き、あなた方の目をくらましたならば。

 自由になるためにあなた方がご自身から取り除くべきもの、それは、古くなってしまったあなた方ご自身の中にある、ぼろきれのような小さなかけらに他ならないのではないでしょうか?

 もしそれら小さなかけらが、取り除かなければならない不正義な法律であるとしたら、それは他でもなくあなた方の右手が定め、ご自身の額に埋め込んだ法律であるからです。

 それにも拘わらず、あなた方ご自身の帳簿[注1]に記された法律は、その法の書を焼いたとしても、ご自身の額から消し去ることはできません。ええ、決してできやしません。裁判官らの額を洗ってたとしても、あるいは海の水を注ぎこんだとしても、消し去ることはできません。

 たとえその法律が、あなた方が玉座から引きずり下ろしてやりたい暴君であったとしても、まずはご覧なさい、あなた方の奥深くにあるそいつの玉座が壊れているかどうかを。

 というのも、その暴君はどうやって自由な誇り高い者たちを支配できるというのでしょうか、暴政が彼らの自由の土台でない限り、そして恥辱が彼らの気高さの土台でない限りは?

 もしその法律が、あなた方が取り除きたいところの不安であったとしても、その不安は他でもないあなた方が選び取ったものであり、他の誰かがあなた方に押し付けたものではありません。

 そしてもしその法律が、あなた方が放逐したいところの恐怖であったとしても、その恐怖の源はあなた方の心の奥底に植え付けられたものなのです。恐怖を及ぼしてくる者の両手に植え付けられたものではありません。

 はっきりと申し上げましょう、あなた方の本質の中で、とこしえに互いを抱き合いながらうごめいているもの、それは、あなた方が欲しているもの、恐れているもの、愛しているもの、忌避しているもの、目指しているところのもの、そして遠ざけているもの、それら全てなのです。

 これらすべての欲求が、あなた方の中で光と影のように運動しているのです。

 もしも影が跡形もなく消えてしまっても、今度は輝いている光が別の光にとっての影となるでしょう。

 あなた方の自由についても同じことです。もしも自由を縛る枷が外れたならば、今度はその自由じたいが、それより大きな自由にとっての枷となるのです」


注1:帳簿 原文ではdawāwīn。dawāwīn(単数形はdīwān)は、本来「詩集」などを意味する単語だが、ここでは単に文字を書き留めるためのノートとか帳簿くらいの意味であろう。

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